5・21 もうお金を儲ける時は過ぎたよ (2009/05/22)
写真を届けた後、夕方時間が開いたので、ひさしぶりにストリップ劇場を覗いてみた。 小便をしたくなり、便所に入ると顔馴染みの日系の小柄なおじいちゃんが、僕の顔を見ると「どうかね!」と日本語で挨拶してきた。 このおじちゃんは、も10数年もこの便所でチップをもらって生活をしている人で、随分前に取材したことがある。フェイランチ(青空市場)の売り子やいろんなことをしてきたとのことであったが、年金を貰う様になってこの便所で働いているらしい。給料は無しであるが、便所を掃除することを条件でここにいさせてもらって、客からチップをもらっている。小柄でタコのような顔に野球帽をかぶり、愛嬌があるから、結構チップをもらっていたようだ。 一番最初に便所に入ったとき、小便をしているすぐ横で「小銭があったらちょうだいよ」とポ語で念仏を唱えるように何度も何度も言われうんざりしたものである。そうするうちにこのおじいちゃんに興味を持ちいろんな話をするようになった。ひとつの短い話にまとめたのだが、コンピューターがこわれてしまい、ついにそのルポは日の目を見なかった。 「今日は4時から働いてたったこれっぽっちだよ」握っていた小銭を僕にみせた。そこにあるお金は1レアルにもみたないものだった。 「最近は、不況でね、ここも随分お客がへったし、チップもくれなくなったよ」と嘆く。 「もうお金を儲ける時は過ぎたよ」と大きなため息をついた。かつて僕がおじいちゃんから聞いた話では、ずっと暗い日陰ではいずり廻ってきたような感じの人生であった。それだけに、おじいちゃんのこの言葉は、彼にはとても不似合いで、奇妙に印象にのこった。 小便を終え、ポケットの中の小銭を渡すと、彼はもう一度「もうお金を儲ける時は過ぎたよ」と嘆いた。 それを聞いて、もう一回彼を取材しなおしてみようかな、という気になった。
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