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     南米日本移民の肖像  (最終更新日 : 2024/09/15)
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早﨑功さん (2024/08/19)
2018年2月号早﨑功さん.jpg
 少年時代にパラー州ベレン近郊のグァマ移住地に入植し、趣味と実益を兼ねて原始林の中で猟生活をしていた経験を持つ早﨑功(はやさき・いさお)さん(72、熊本県出身)。1990年代初頭から27年間にわたって日本に出稼ぎに行き、それまで2年に一度ブラジルに戻る生活を繰り返したが、昨年(2017年)2月末に出稼ぎ生活に終止符を打ち、現在はベレンでの生活を楽しんでいる。若き日にジャングルで得た「野生の勘」が、年齢を感じさせない行動の源となっている。
 日伯両政府間の協定により「米作移民」として第4次でグァマ移住地に入植したのが1957年。早﨑さんは当時、12歳。少年ながら、移住地の前宣伝が「最低2、3町歩の農地が整い、2階建ての住宅が完成している」と聞かされていた。
 しかし、現場は原始林の真っ只中で、椰子の葉で間仕切りし、丸太で造ったバラックの収容所があっただけ。飲料水はなく、グァマ川の泥水の上澄みをすくって飲んだという。
 家長によるクジ引きで耕地割りが行われたが、早﨑家族の耕地は川べりで、雨季はほとんどが水びたしとなり、25町歩のうち使用できた土地は1町歩だけだった。早﨑さんは電気もないカンテラ生活の中でも、日本から持ってきた本をむさぼり読んだそうだ。
 日本政府の調査団が耕地不適地との結論を出し、グァマ移住地に入植して3年後、早﨑家は他の10家族とともにアカラーに転住した。
 同地は100町歩の土地があったが、原始林を切り倒し「ヤマ焼き」を行わなければならない生活。早﨑さんも家長たちと一緒になって働き、16歳になった時に初めて銃を手にした。当時、銃は簡単に手に入り、弾の購入など「ベレンの銃砲店の顔だった」ほどよく通い、自然と警察関係者とも親しくなったという。げっ歯類、鹿などの哺乳(ほにゅう)類や鳥類といった獲物を求めて、原始林の中を歩き回ることに早﨑さんは生き甲斐を感じた。
 原始林に入る時は常に実戦を想定し、犬を2匹連れ、腰のガンベルトに38口径の拳銃、肩に散弾銃と山刀(ファッコン)を手に持って行った。夜、射撃の練習をする時は、25メートルほど離れたところに砂山を築き、その根元に灯したロウソクを立てて、火を目印にして銃で消していたという。
 「一人でヤマ(原始林)に入っていて、会うと一番恐いのは毒蛇と人間だね」と早﨑さん。原始林に入ることで、人間の野生感覚が研ぎ澄まされ、「見た目には何も居ないのに、誰かに見られているような嫌な感じになる時がある。蛇が足元を通れば、上を向いていても感覚として分かったしね」という経験も少なからずあった。
 20歳前後の頃、ブラジル人労働者との諍(いさか)いが原因で、早﨑さんが後ろを向いて座っていた時に背後から山刀で切り付けられたことがあった。
 「その時は殺気で髪の毛が逆立ったような感覚になり、一瞬『やられたー』と思った。(ブラジル人労働者は)慌てていたので山刀を握りそこない、足首のくるぶしを平打ちされただけで助かった」
 幼少の頃にトメアスーに住んでいた三千枝(みちえ)さん(72、宮城県出身)と23歳で結婚してからは原始林に入る回数は減ったが、野性味溢れる行動は変わらなかった。
 5歳になった子供をアカラーにはなかった幼稚園に通わせるために、ベレンに家を購入。しかし、早﨑さんは農園での仕事があるため、父母とともにアカラーに住みながら、週末にベレンの家族に会いに行くという生活を続けた。
 今でこそ、アカラーまでの道は整備されたが、当時、アカラーまでは300キロの道のりで、うち100キロは砂利道。その道を単車で150キロものスピードで駆け抜けていたというから、並の人間技ではない。
 コショウで儲け、「年間に新車を3台買い換えた時期もあった」と話し、決して経済的に恵まれなかったわけではない早﨑さんだが、コショウの値段が下落し、家族の将来のことを考慮。90年代初頭に単身、日本に出稼ぎに行くことを決め、アカラーの土地も2000年頃に処分した。
 日本での生活も徹底していた。出稼ぎ生活は27年に及んだが、遅刻はおろか会社を一度も休んだことは無く、大怪我をした翌日も出社するなど、超人的な精神力を貫き通した。
 昨年(2017年)2月末に日本の生活に終止符を打ち、現在はベレンの自宅でくつろぐ早﨑さん。「両親の墓もあるし、自分の帰る所はここ(ベレン)しかなかった」と語り、「できるなら、若い頃のアマゾン時代に戻りたいね」と笑顔を見せた。(2018年2月号掲載)


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松本浩治 :  
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