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     南米日本移民の肖像  (最終更新日 : 2025/02/03)
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坂和三郎さん (2025/01/04)
2019年9月号坂和三郎さん.JPG
 「ブラジルには本当は(伯国の)軍艦で来る予定だったんですよ」―。こう語るのは、東京都友会の会長(現在は名誉会長)やサンパウロ日伯援護協会(援協)の副会長などを歴任する坂和三郎(さかわ・さぶろう)さん(85、東京都新宿区生まれ)だ。
 日本大学の国際研究所に所属していた学生の頃、ドミニカ共和国で日本公館の領事の経験があった恩師の教授から、「船(伯国軍艦)の甲板掃除をしながら、タダで海外旅行ができる」ことを聞かされ、日本の外務省の推薦により自由渡航者として他の4人の同窓生と一緒に大学卒業直後にブラジルに渡るはずだったという。しかし、当時、石川島播磨(いしかわじまはりま)工業に発注されたブラジルの軍艦は諸問題で引渡し期間が間に合わず、結局は1955年3月1日横浜港出航の「ボイスベン号」で同窓生と5人一緒に渡伯することに。その際に移民監督として同船したのが、海外協会連合会(海協連、現JICA国際協力機構)のサンパウロ支部長としてブラジルに赴任し、その後に援協をはじめとする日系社会の発展に尽力した大沢大作(おおさわ・だいさく)氏だった。
 同年5月10日にサントス港に到着した坂和さんは当初、邦字紙の「パウリスタ新聞」で社会部記者として働いたが、56年2月に「ブラマリーダ社(現・丸紅ブラジル会社)」に入社。同船者でもあった大沢氏とはその頃から昼食を共にするなど、個人的な付き合いが続いた。「(大沢さんは)役人タイプではなく、ざっくばらんな人でしたね。サントス港に着いた移民の宿泊状態や配耕先にも興味を示し、『(戦後移民の渡伯が多かった当時)移民はこれからどんどんとブラジルにやって来る。どのようにしていったらいいのか。今後の日系社会はどう進んでいくべきか』などと言っていたのを覚えています」と坂和さんは、大沢氏との思い出を振り返る。
 7年の商社経験を経て、63年に「カーザ東山(とうざん)」に勤務。その頃は日本企業が数多くブラジルに進出していた時代で、伯国情報を提供するため、三菱系関連の広報宣伝を担当した。ブラジル情報の需要が増す中、坂和さんは当初から念願だった独立を決意し、66年に「JUNCO PUBLICIDADE総合広報社」を創設した。社名の「JUNCO(葦(あし))」は、フランス哲学者・パスカルの名言「人間は考える葦である」にちなんで付けたとし、「葦には華麗さはないが、細い柔軟さはどんな強風にも折れない強靭さを持つ。束ねれば葦舟も作ることができ、これで大洋を航行することもできる」と、その由来を説明する。
 日系初の広報会社だった同社には、初期の進出企業や日系の地場企業などから仕事が数多く舞い込んだ。翌67年には、商業見本市の企画会社である「フェニブラ」社と、ブラジルの経済情報などを進出日本企業向けに発信する「日伯経済通信社」も設立。特に日伯経済通信社は当時、A4版で3ページほどの情報を商社など約80社に配信し、火曜日から金曜日までの週4回発刊で3000号まで続いたという。
 「各種企業とも付き合いがあり、ヤクルト商工さんとは創業当初の土地探しの時からお世話になり、ヤオハンさんのお仕事でもピニェイロス区の第1号店、第2号店、ソロカバ、カンポス・ド・ジョルダンの各店ともに内装関係を担当させていただきました。また、長崎屋さんやトヨタさんのほか、JETRO(日本貿易機構)さんとも見本市関連の仕事をさせていただき、70年代初めにはアニェンビーでの第1回産業見本市にも携わりました」と坂和さんは、2009年に閉鎖するまで43年間にわたって商業活動を行ってきた「JUNCO PUBLICIDADE総合広報社」への思いを語る。
 現在も援協をはじめ、東京都友会、日伯文化連盟、ブラジル日本語センターなど主要日系団体の理事および役員などを兼任する坂和さんは、2015年に外務大臣賞を受賞。その合間に週1回の割合で、サンパウロ市リベルダーデ区にある援協福祉部の社交ダンス教室にも指導員として通っている。元々学生時代からやっていた社交ダンスは、ブラジルでは仕事が多忙でしばらく中断していたが、時間的に余裕ができてきた20年ほど前から再開。数年前に仲間から誘われて、援協福祉部の社交ダンス教室にも指導協力している。
 一緒に渡伯した4人の同窓生とは現在、連絡が取れない状態で、1人はマット・グロッソ州方面に在住していると聞き及び、1人は日本に帰国、2人は既に他界しているという。「自分の人生を振り返ってみますと、私は本当に運が良かったと思います」と語る坂和さんは、温和な表情を浮かべていた。(2019年9月号掲載)
 


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松本浩治 :  
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