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岡村淳のオフレコ日記
     岡村淳アーカイヴス  (最終更新日 : 2024/02/18)
緊急報告 NHK「ハルとナツ」の疑惑(2)

緊急報告 NHK「ハルとナツ」の疑惑(2) (2007/01/24) ドキュメンタリー映画の最前線メールマガジン「neoneo」に事件発覚当時に掲載した拙文の(2)を発行人・伏屋博雄さんのご厚意をいただき、以下、転載する。
本業のドキュメンタリー最新作の仕上げと上映、日本とブラジルでのNHK告発上映・講演会、NHK疑惑をめぐっての世界各地からの連絡への対応等々のなかであわただしく執筆したものである。
日本のドキュメンタリー関係者に向けて発信したものだが、事件の経緯を知る資料のひとつとしてアーカイブスに納めることにした。
こうした場を提供してくださった伏屋さんに、改めて御礼申し上げたい。

緊急報告 NHK「ハルとナツ」の疑惑(2)
NHKの刺客


●NHKの刺客

ここまでNHKがデタラメかつお粗末だとは思わなかった。
NHKの放送80年記念ドラマ『ハルとナツ』のパクリ疑惑について、私がNHKの橋本元一会長宛てに9月末に質問状を送った際は、およそ1週間で担当プロデューサーから回答があった。その回答が質問の答えになっていないことは、並みの国語能力のある人間なら明らかだ。

その後、私は先方の5日間にわたるドラマの放送に付き合った上で、本稿(1)(注:10月15日号に掲載)で掲げたドラマの根幹部分の3点の設定の他に、
4、半世紀以上経ってブラジル移住をめぐって離別した姉妹が、日本側の女性は邸宅に住むにもかかわらず、いきなり温泉宿で旧交を温める

以上もドラマのプロデューサーが事前に試写していた私のビデオ・ドキュメンタリー『60年目の東京物語 ブラジル移民女性の里帰り』(1996年、東京メトロポリタンTV放送)の実話そのままだったことについて、『ハルとナツ』は私の作品を参考にしたのかの再質問状を送った。また先の回答で、類似の番組は数多く制作されている、というのがNHK側の私の作品をパクっておらず、両者は「まったく」共通する部分がないという理由として掲げてあったので、NHKが私の作品以外に「参考」にした類似の番組を証拠としてひとつでも具体的にあげることを再質問状に記し、ドラマ放送終了の10月6日にNHK会長宛に送付した。

すでに3週間以上が経つが、NHKは沈黙したままだ。この問題について調査をしたジャーナリストによると、NHKは「回答に対する疑問の提示(再質問)は受け入れられない」とのこと。答えになっていない回答をよこして、後は問答無用。これがNHKの一連の不正・腐敗の一掃を目的に就任した橋本元一新会長体制の実態である。先回、報告したNHK職員によるブラジル移民資料の持ち出し・横流し事件の告発の無視・もみ消しも、同じ橋本体制によって行なわれているのだ。最近のNHKのサイトを開くと「NHK まっすぐ、真剣。」とキャッチがあるではないか。笑いも取れない下品なブラックジョークだ。
そんななか、NHKはとんだ刺客を放ってきた。ブラジル日系社会の大御所作家といわれる醍醐麻沙夫である。醍醐は『ハルとナツ』のロケハンの時に脚本のチェックを依頼されたという。NHK御用達である。この作家がブラジルを代表する日本語の日刊紙「サンパウロ新聞」に4回にわたって岡村批判を展開したのである。作文としてはNHKの回答よりいただけないレベルだ。サワリを紹介しよう。
「もし、利用されるのが嫌なら、発表しなければいいのです。」「私は、映像作家としての岡村さんの存在価値を認めていないわけではありません。」こんな調子である。
私はいずれの批判にも即日、反論を書いて同紙に掲載してもらっている(これらの経緯・資料は本稿末に掲げた私のサイトに紹介している)。

日本では「NHKの『ハルとナツ』に多大な影響を与えた」岡村ドキュメンタリーを上映しようという機運が盛り上がっている。なかには、これまで岡村作品の上映会を開いたさる大学から、今後、岡村作品の上映は一切禁止、という連絡もちょうだいしているが。本稿執筆中に入ったニュースによると、東京メトロポリタンTVそのものが12月に岡村作品の再放送を予定しているという。NHKは笑うべき手口で疑惑のもみ消しを図ってくるため、私も発言・発表を控えてきたが、もう世論はとめられない。皆さん自身の目で「本物」ならではの迫力と感動を確かめていただきたい。意外だったのは、日本のドキュメンタリー関係者がこの事件を知らないか、知っても関心を示さないことだった。

neoneo発行者の伏屋さんも岡村が報告するまでご存じなかった。疑惑問題は読売新聞を嚆矢に、産経、東京などでも報道されたが、伏屋さんによると、neoneo読者は朝日の購読者が多いから知らないだろう、とのこと。果たしてそれだけだろうか。昨今、日本のドキュメンタリー界はセルフ・ドキュメンタリーが主流の風潮が続いているようだ。私映画に没入されている皆さんには、無名・無冠・移民のドキュメンタリー作家の痛みなど無縁かもしれない。

今回の問題で私のサイトに1日のアクセスが1万件も殺到するようになって間もなく、山形国際ドキュメンタリー映画祭が開催された。臨機応変の利く、まさしく現在進行形のドキュメンタリーの問題に取り組む力量のある映画祭なら、緊急プログラムを組むことも可能だったかもしれない。
私の11月の訪日に合わせて、すでに3箇所の首都圏の大学、そして3箇所の地方都市での『60年目の東京物語 ブラジル移民女性の里帰り』上映と講演会が決定している。
いずれもドキュメンタリー映画とは無縁の人たちの主催である。
黒澤作品のパクリ告訴を裁判で下し、岡村作品のパクリ告発を門前払いで無視する大NHK。増長するばかりで自浄機能を持たない欺瞞と傲慢の組織は、今後も同じことを繰り返すだろう。
次の被害者は、そんなNHKの受信料をご負担のあなたかもしれない。
(「neoneo」2005年11月1日 第46号にて発表)


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