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岡村淳のオフレコ日記
     西暦2006年の日記  (最終更新日 : 2007/01/01)
12月の日記・総集編 はじめに現場ありき

12月の日記・総集編 はじめに現場ありき (2007/01/01) 12/1記 はじめに現場ありき

ブラジルにて
未明にバスの故障、乗り換え。
本来、夜明け前に現場に着く予定が、到着前にだいぶ日がさしてくる。
朝の射光に照らされる大地が美しい。
昨年1年通い詰めた託児所。
何人かの子供たちと強く抱擁。
この子たちに、人間にしてもらえた、と思う。
現場を離れたところに僕のドキュメンタリーはないな、とも。
少しずつ頭のなかを整理、適応していく。


12/2記 回復の家

ブラジルにて
昨晩遅く、フマニタスに到着。
最近、佐々木治夫神父は体調を崩されたと聞き、心配していた。
回復状況は順調とのこと。
今回見たところ、まあ快調そうである。
朝、CASA DE RECUPERAÇÃO に行くという神父さんに同行。
近年の佐々木神父がらみのプロジェクトの大きなニュースはこれだろう。
直訳すれば「回復の家」、「更生ハウス」といったところか。
アルコールや麻薬の中毒者の更生を図る施設。
ビデオ制作の頃に、ようやく計画が持ち上がっていた。
さすがに入居者の撮影は控えてくれ、という施設なだけにビデオでは紹介の仕様もなく、ある意味では助かった。
フマニタスに戻って明日の講演の準備とゴロゴロ。
こっちは、ミクシィ中毒の更生。


12/3記 家族

ブラジルにて
名札担当の受付の女性に聞かれる。
「神父さんですか?」
ちょっと迷ってから答える。
おかげさまで違います」
怪訝な顔をされる。
親しいシスターにこれを伝えると、
「ダメですよ、ホントのこと言っちゃ」

フマニタスからアモレイラへ。
今日は、佐々木神父の依頼で、この地区の日系信徒相手に「家族」について講演をすることに。
ご承知のように、ヨタ話はいくらでも出る。
しかし今回はどこまでジョーダンが通じるかわからない人たちに、守備範囲外のお題で臨む…
以来を受けて依頼(図らずもダジャレ)、常にこれを考えていた。
先方に敬意を表して新共同訳の聖書、そして宮本常一を持参、一部を読み上げる。
大黒澤のエピソードも引用。
原田正純先生の御著も、と思ったが見つからず。
なるべくゆっくり話すこと。

例によって少しの後悔はあるが、想定以上の反応はあった。
ま、これだけ準備したんだからね。


12/4記 2/3計画

ブラジルにて
夜行バスの道中は大雨、これまで停まらなかった町にも停まり、着時間がだいぶ遅れる。
そもそも隣に大男が座り、寝返りもうてずに疲れた。
恐れていたことが現実に。
朝の地下鉄のラッシュ時間に突入。
今回は旅先でお土産を減らすどころか、返って膨れ上がった。
カシャッサ3本にお楽しみ大袋。
さらに家宝となる貴重品も。
カバンは都合3個也。
ままよ。
3台目の地下鉄南北線に乗る。
ラッシュといっても…
控えめに言って、東京の2/3ぐらいの稠密度だろうか。
もちろん歩き回れるスペースはないが、立っている乗客同士が体を接していない。
日本のあれ、やっぱり異常だぜ。


12/5記 去年という年は

ブラジルにて
再び「あもーる あもれいら」の撮影素材チェック。
託児所内でのあるイジメが撮れていた。
おお、これがブラジル式イジメか。
結末がまた泣かせる。
これを撮影したのはすっかり忘れていた。
なにせ去年はいろいろありすぎた。
「ギアナ高地の伝言」の取材旅行とまとめ。
「KOJO」取材のため日本、カンボジア、フィリピン遠征。
パラグアイ視察。
そしてあの下品なNHKによる橋本先生の資料横領・横流しの告発、いんちきドラマのパクリの告発と敵側による誹謗中傷との戦い。

その合間、家事も抱えながら毎月1度以上は500キロ以上離れた現場に通った。
フリーになってもっとも取り込んだ年かもしれない。
ぎりぎりな状況で作品に取り組んでいる緊張感が、撮影期間1年という長いスパンの中にも漂う作品になるかもしれない。


12/6記 床屋と縄文

ブラジルにて
昨日、リベルダーデの散髪店主・大塚さんから電話をいただく。
「どうしてるかね?」
ちょうど散髪を必要としていたところ。
アモレイラの託児所のガキどもにも、
「チウ(おじさん)、髪の毛長いわねー」と言われていた。
今日、朝イチでうかがう。
蒸しタオルの起源などで意外な話を聞く。
ウラを取ろうと、ネット検索。
するとさらに別の意外なことが。
そもそも東日本と九州の一部で「床屋」と称し、西日本では「散髪」と称するというではないか。
これは知らなんだ。
この分布、ズバリ縄文時代の人口稠密地が「床屋」地域と重なる。
床屋の起源は、縄文にさかのぼるか。
まさかね。


12/7記 身の丈ちょっと上

ブラジルにて
先週、「やりましょうか」と盛り上がった話。
今日、サンパウロ市内で撮影開始。
ここで書いても仕様のない問題はある。
が、まあいいすべり出しといっていいだろう。
自分の身の丈より、ちょっと高いかな、というぐらいの企画。
自分の成長のためにはちょうどいい。
さあ、どうなるか。


12/8記 青幻記

ブラジルにて
もらい泣き。
おそらく次回作になる「あもーる あもれいら」の素材チェック作業。
託児所で行方不明になった息子を探す母親のシーン。
2度見て、2度泣ける。
ふと「青幻記」という映画を思い出す。
成島東一郎監督、1973年。
副題が「遠い日の母は美しく」。
日本でソフトを見かけたことがないが、知る人ぞ知るまさしく幻の作品。
ちょいと検索してみると、今年、日本のBSで放送したらしい。
こうした名作が新たに共有されるのは、よきかな。


12/9記 一日集中

ブラジルにて
これだけ同じ日に行事が集中するのも珍しい。
他の州からも2件の誘いがあったほど。
日中は子供のお世話になっている施設のイベントを優先。
夜は友人の記念パーティの出席を選択。
飲み過ぎもモメゴトもなく、地下鉄のある時間に帰宅できた。
やれやれである。


12/10記 写経のごとく

ブラジルにて
息子が袋いっぱい古いgibiをもらってきた。
gibiとは、マンガ本のことで、主にA5サイズ。
妻の実家の物置にあったもの。
発刊後20-30年は経っている。
ホッチキスで2ヶ所止めただけの簡単な製本。
資質の劣化とともに、表紙の破れかけたものが多い。
トーチャンがセロテープで修復する。
面白いことに、表紙の紙は劣化するとカッターで切ったように小片となって欠けていく。
こういう現象は日本では見た覚えがない。
数冊修繕すると、新たに破損したマンガ本が運ばれてくる。
ぬかりのないよう、けっこう真剣に取り組む。
まるで写経でもしている心境。
したことないけど。


12/11記 写真集「移民1」

ブラジルにて
在ブラジルの畏友・松本浩治さんが悲願の写真集を発行した。
(松本さんのサイト: http://www.100nen.com.br/ja/kojien/
本サイトのタイトル項目はローマ数字が使用できないのでアラビア数字となっているが、正しくは「移民Ⅰ」である。
力作・労作である。
見ればわかる。
次回訪日時の格好のお土産として、さらに何冊か買わせていただこうと思っている。
当地孤高の論客・美代賢志さんもバージョンアップされたご自身のブログのなかで、このタイトルにかみ付いているがそれも彼特有のレトリックだったようで、絶賛に終わっている。
http://www.brasilforum.com/index.php/%E8%B2%B4%E5%8D%91%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%83%A0/%E6%9B%B8%E8%A9%95%E3%80%80%E7%A7%BB%E6%B0%91I%E3%80%80%E6%9D%BE%E6%9C%AC%E6%B5%A9%E6%B2%BB
松本さんがどれだけの思いでこの写真集をものしたかの、片鱗は知っているつもりだ。
そもそも本業の邦字紙記者の業務で、薄給にもかかわらず平日の夜も土日も取材が続く。
そのうえ、ひっきりなしの不意の来客・食客・酔客を自宅に受け入れ、日本からの様々なプータローの世話をする。
そのなかで余程の気力とご家族の理解・協力がなければ、できるものではない。
まずはおめでとう、に尽きる。
しかし見ないでもできそうなコメントだけで、思考停止していいものか。
それではⅡ以降をもくろんでいるだろう表現者に対して、こちらも表現の端くれに携わる者として失礼と考える。
これから大海に漕ぎ出していくなかで、様々な毀誉褒貶があることだろう。
ブラジルの仲間連中からはこの程度の指摘もなかったのか、とナメられるのも不本意だ。
ぬるま湯的飲み会・サロンもいいが、お互い共通の地盤に立つ友人として表現者としての、お互いの向上のための切磋琢磨は怠らないようにしたいと思う。
2点ほど。
写真の怖さを改めて痛感した。
相手との関係性が見事に写りこんでしまうことだ。
僕あたりには、松本さんが濃密な時間と人生を共にしただろうくたびれた邦字新聞社の老同僚の写真が心地よい。
いっぽうおそらく松本さんが生涯再会することもなければ名前を知る術もないだろう人の写真が、「移民」という枠組みで並列されている。
このあたりの写りこんでいる関係性の落差に違和感を感じてしまった。
もう1点。
何をもって「移民」とするか。
そのあたりの定義はサンパウロジンモンケンの先生がたにでも任せておけばいいだろう。
だが、ふつう「2世」はこのなかに入れないだろう。
「移民」と銘打つ写真集に2世の写真が若干程度、混じることに異存はない。
しかしこの写真集のカバーを飾り、この写真集の代名詞となっている写真のおばちゃんがキャプションから2世と知り、ちょっと面食らっている。
例えてみよう。
「アマゾン」と銘打つ写真集がある。
そのカバーの1枚写真が実際には「パンタナール」の写真だったら。
作者の選んだアマゾンというテーマでは、表紙を飾るだけのパワーがテーマ自体にありえないのか。
それなら「ブラジル」と題すればいいわけで、何ゆえのアマゾンか。
あるいは作者の傲慢か怠慢か。
正直は美徳に違いないが、妙な手抜かりがあると、致命傷にもなりかねない。
自戒を込めての提言である。


12/12記 折に触れて

ブラジルにて
さる篤志家に、ゴチになる。
リベルダーデにて。
もう一人、若手が呼ばれていた。
沖縄系日本料理店にて。
帰りしな、「奥さんに」といってそれぞれに折り詰めの握り寿司を持たせてくれた。
「サザエさん」の世界を思い出す。
酔って遅くなった親父が、家人の機嫌をとるため、折り詰めの寿司を持ち帰る―
そんな文化は今も祖国に残っているのだろうか。
徒歩数分のコンビニで24時間、寿司が買えるようになった。
そもそも連日家族の帰宅がバラバラで深夜におよぶ時世に。
―折り詰め効果は、21世紀のサンパウロの我が家でもテキメンだった。


12/13記 年末シフト

ブラジルにて
子供たちの学校はそれぞれ長期休暇に入った。
まだいくつか送り迎え業務は続く。
朝飯はともかく、昼も夜もソコソコのものを食べさせるのは、ひと仕事。
その他、何かと本業がらみ等々のお出かけもあり。
師走とはよく言ったもの。


12/14記 ステレオ崩し

ブラジルにて
現在、こちらで「Olhar Estrangeiro(外人の眼)」という楽しいドキュメンタリーがかかっている。
欧米人の目にどのようにブラジルが写っているかを、映画に登場するブラジル像から分析。
ステレオタイプというものは実に無責任で根拠を伴なわないものだ。
この作品についてはneoneoに少し書いたので、いずれ。
さて先週に引き続き、さる方のインタビュー撮影。
ブラジル移民像・移民史のステレオタイプが見事に崩されていく。
そういうのが好きな小生も、どうしよう、と思うぐらい。
どうしよう。
作品としてまとめられるかどうかは、まだ自信がない。


12/15記 師走頂上作戦

ブラジルにて
今日は朝から晩まで、主な業務・行事だけで4件に挑戦。
カオチックな町の運転時間だけで4時間に及ぶ。
昨日の三脚を使わない長時間インタビューの疲れもあいまって両足のふくらはぎと腰が痛む。
ま、今日を乗り越えれば師走のピークも越したというものだろう。
岡村作品ウオッチャーへの面白いトピック。
フマニタスの佐々木神父の頼みごとで植物学者の橋本梧郎先生を訪ねてきました。
内容はここでは明かせず、ごめんなさい。


12/16記 あなたを選んだ

ブラジルにて
読みかけの本をいくつかひもとく。
子持ちのお仲間も少なくないので、こんなのをご紹介。

(前略)彼らは、あるレッスンを学ぶため、ある経験をするため、彼らの性質のある面を延ばすため、スピリチュアルな成長においてほかよりも弱いところを強くするために、あなたを親として選んだのです。(中略)
あなたの子供が起こした問題を、あなたと子供の両方にとっての特性を伸ばす機会だととらえることができれば、問題もそれほど厄介なものではないと気づくでしょう。(中略)
彼らにあなたの時間を与え、あなたの注意を向け、そしてあなた自身をささげてください。それが愛です。子どもたちはあなたと経験した大切な出来事を覚えています。しかし、それがどのくらい頻繁にあったかということは覚えていません。ですから、できるときはいつでも、彼らにたっぷりと与えてあげてください。
「インディゴ・チルドレン」ナチュラルスピリット刊



12/17記 「太陽の天使たち」

ブラジルにて
家族は子供の施設関係者のクリスマス行事に行くことになり、その送り迎え。
その間、本日特別上映されるブラジル映画を観に行く。
CINESESCでの2006年ブラジル映画回顧特集。
目当ての映画はRudi Lagemann監督の「ANJOS DO SOL(太陽の天使たち)」。
ブラジルの少女売春の実態を実話に基づいて描く。
バイア州の漁村に住む12歳の少女が親に売られる。
彼女の行き先はアマゾンの密林のなかのガリンポ(金鉱)の売春窟。
こちらの訪日中にひっそりと封切られたのだろうか、寡聞にしてこの映画の存在を知らなかった。
日本からサンパウロのファヴェーラ(貧民街)にボランティアに来ていた青年に教えてもらった。
僕自身アマゾンをさんざん廻って、この問題の片鱗とも接点がある。
それだけに、いたたまれない思いと共にこうした映画の存在に拍手である。
日本のマスコミ関係の連中について言えば、ブラジルの少女売春問題に関しては消費者である実例ぐらいしか知らない。
日本人移民に関しては、未成年者を使う売春窟のオーナーが逮捕された例がある。
そしてモーテル経営者が日系社会の名士。
そんでもって2008年の移民100周年にはぜひ皇族を、とか。
おめでたすぎる。


12/18記 愛国心

ブラジルにて
ミクシィを始めてから数週間。
ブラジルと日本のみならず、アメリカ合衆国、スペイン、フィリピン、オーストラリアとリンクがつながっていく。
在外日本人が祖国に働きかけるのも、まんざら夢ではなくなってきた。
アホな捨て書きだけではもったいないツールだ。
日本で知人からもらった本を読了。
現在の祖国の問題を短く鋭く捉えている部分をご紹介しよう。

(前略)
 ときの政府が愛国心を持ち出すときは眉にツバをした方がいい。政府と国家は違うのだ。国民が政府を愛してくれないと分かっているから、政府と国家を同一視させて国民をだまそうとして愛国心を持ち出すのである。これはすり替えであり、詐欺である。真の愛国者はこんな政府にだまされてはならない。戦前の日本軍事政府はしきりに愛国心を強調して国民に軍部への忠誠をあおり、その結果として国を滅ぼしてしまった。(後略)
「君の星は輝いているか 世界を駆ける特派員の映画ルポ」伊藤千尋著、シネ・フロント社 2005年



12/19記 思い出の夏2006

ブラジルにて
冷夏気味だったが、ようやく猛暑。
暑い。
さすが腐っても南回帰線直下。
長期休暇で狭いアパートに子供たちもこもりがち。
時間的棲み分けを図るか。
なるべく未明にでも活動するようにしよう。


12/20記 ジオラマの血

ブラジルにて
午後のひと時、息子とデート。
取材と家事の合間を縫って。
パウリスタ方面で見つけたプラモデル屋が目標。
すでに父親が下見をしてある。
兵隊セットの話をすると、欲しいということで。
いくつかの世界的に知られるメーカーの代理店でもあると知る。
店の内外にいくつかジオラマが置かれているが、中学時代の僕の方が上を行っていた気もする。
日本人はこの分野でもかなりキョーレツな域に達しているのではないか。
中学時代、模型部をでっち上げた。
周囲がお受験一色の3年の時、「中国農村部で三光作戦を繰り広げる日本軍」というこれまた血なまぐさいジオラマを作った。
文化祭で展示をしたが、教師側からも生徒側からも何のコメントもなかったな。
息子には1/72の兵隊セットを勧めてみる。
残念ながら人気筋のWWⅡのドイツ軍やアメリカ軍は品切れ。
ロシア製の日本のサムライセットなんてのもある。
さんざん迷った末にエアフィックス社のロシア軍セットを購入。
なかを開けてちょっとビックリ。
僕の現役時代の30有余年前とまるで変わっていない。
返ってクオリティが堕ちた観もある。
バリがひどく、細部がひん曲がっている。
コンビニの食玩にも彩色済みのフィギュアの出回る祖国が、異常な進化を遂げてしまったのだろう。
ま、お互い後戻りはできない。


12/21記 VOID

ブラジルにて
未明に家を出る。
夜行バスで奥地から出て来る人のピックアップに。
ひと波乱あるが、なんとか迎合。
これまで撮影でお世話になり続けているこの方、今晩の便で一時帰国されることになった。
夜の空港までエスコートさせていただくことに。
今日は子供の方の用事や別件の撮影などが入っている。
それにもお付き合いいただいて。
夕方、渡航書類のチェックをされた。
ブラジルと日本の出入国書類、アメリカの出入国・税関申告書などの詳細をご存じなかったのでご説明。
パスポートのチェックもされた。
「有効期限、大丈夫ですね?」
女性のパスポート名だけに、覗き込むのも気がひけるが…
手にとらせていただくと、「VOID」の4文字が。
――後は書くまい。


12/22記 小さな奇跡

ブラジルにて
来客のお世話、昨日のVOID事件の善処、子供たちの世話、そして3日連続の撮影、と師走ここに極めり。
VOID事件では、小さな奇跡発生。
いやはや。
夜は不思議な偶然が。
相手が祈りの人たちなだけに、あなかしこ。
お疲れさんでした。


12/23記 老人天国

ブラジルにて
当地の郵便局は、土曜は局によって休業か昼12時までの営業。
日曜は休み、月曜25日もクリスマスで休み。
今日中にぜひ特別便で発送したいものがある。
急ぎ梱包、昼まで営業の局へ駆けつける。
ごっそりと先客が。
番号札を取って電光掲示板で呼ばれるのを待つシステムだ。
20人待ちの番号。
しかもこれは「一般」カテゴリーの番号で、別に「優先」カテゴリーがある。
「優先」は老人、妊婦、ハンディキャップのある人たち。
「一般」の人がどれだけあふれようとも、後から来る「優先」の番号を取った人が優先される。
僕はともかくとして、平日の労働で郵便局に行く間もない人たちが、延々と待たされる。
暇をもてあました老人が「優先」され、待ち続けている人たちを尻目に局員にダラダラと油を売って立ち去ろうとせず、さすがに局内にブーイングが。
僕の待ちは1時間。
急ぎの時は、ヒマな老人でも雇って投函するか。


12/24記 逃げるが勝ち

ブラジルにて
23日の日本の各紙オンライン版を賑わした静岡の「日系ブラジル人母子3人殺害事件」。
犯人と見られるブラジル男は19日に日本を出国、ブラジルに逃げ帰ったようだ。
日本とブラジルには犯罪人引渡し条約が結ばれていない。
ブラジルに帰っちゃえばアッカンベーである。
こうした事件が昨年ぐらいから続出している。
誘拐産業、殺し屋、刑務所内から携帯電話で指揮をとる犯罪組織の存在するブラジルである。
法の整備の盲点を突いて、在日ブラジル人ドロップアウト組が手引きをして犯罪フリーの日本でますます凶悪犯罪が産業化しかねない。
一日経った今日は、各紙とも見事にこの事件の続報がない。
今回は被害者もブラジル系なだけに、勝手に殺し合ってろ、ってことか。
こうしたマスコミと国民のこだわらない、飽きやすさが犯罪者の思うツボだ。
残念ながらまだまだこうした事態が続きそうだ。
ブラジル移民百周年どこじゃない。


12/25記 気分は潜伏キリシタン

ブラジルにて
朝、アパートのブザーを押す音。
隣の日系人のおばさんからの差し入れ。
ナタール(クリスマス)なので、おすしを作ったという。
何種類もなかなか凝っている。
五目の寿司飯で玉子焼きや紅ショウガを巻いた太巻き。
鶏肉入りおこわの巻き寿司、そして稲荷寿司。
はて、祖国でクリスマスに寿司は作ったっけか?
長崎あたりの潜伏キリシタンの系統ではどうだろう?
「クリスマス」と「寿司」で検索してみると、クリスマスツリー寿司とか、予期せぬなかなかビザールなものが出てくる。
今度、長崎の童貞さん(かつてカトリック修道女のことをこう呼んでいた)にでも聞いてみよう。


12/26記 発明は台所から

ブラジルにて
家族全員が休みに入った。
朝食はともかく、昼も夜もソコソコのものを食べさせるのは楽ではない。
猛暑の時期、モノは早く傷む。
クソ暑いなかでの調理、夕時には晩酌を先行。
キッチンドリンカーである。
冷蔵庫にウレウレのキウイを発見。
ソコソコの国産ウオッカもある。
まずはキウイを切ってつぶし、ウオッカと氷を注ぐ。
これで少しいただいてみる。
悪くはない。
さあ、思い切ってコンデンスミルクを注ぐ。
ブラジル海岸の味・バチーダ風に。
むむ、なかなかの味だぞ。
ええと、オカズはなんだっけ?


12/27記 「逃げ得では真の共生ない」

ブラジルにて
ブラジルの日刊邦字紙は休刊日が多い。
通常は土日が仕事休み。
今週は25日月曜がクリスマスの祝日で休み。
そのため日・月・火が3日続けて休刊日となった。
あのいまわしい静岡の日系ブラジル人母子3人殺害事件発覚後、初めての新聞が本日付だ。
老舗サンパウロ新聞は日本の報道のコラージュを社会面の左下に置くだけで、これはもうジャーナリズムを放棄している。
インターネットやNHK国際放送で即刻、祖国のニュースが入る時代に、有料購読者としてちょっと嘆かわしい。
もう1紙、ニッケイ新聞の報道である程度、事件のブラジル側のバックグラウンドが分かった。
事前に航空券を手配して3人を殺害後、成田空港からブラジルに逃亡したとみられるネーヴェス容疑者はサンパウロ州バストス出身とのこと。
ちなみに2005年末の時点で86人のブラジル人が日本で犯罪を犯したあと、国外逃亡しているという。
日本で女子高生をひき殺してブラジルに逃げ帰った日系ブラジル人はその後、サンパウロでめでたく結婚とか。
「逃げ得では真の共生ない」、これは帰伯逃亡デカセギ事件を以前から告発していたニッケイ新聞の12月6日号の見出しである。
警告をあざ笑うようにこんな事件が起こってしまった。
静岡もバストスも身近なところなだけに、ますますただごとではない。


12/28記 となりの逃亡者

ブラジルにて
20日にサンパウロに到着、ブラジル国内潜伏中とみられるネーヴェス容疑者を思う。
同棲もしていた女性と彼女の小学生の息子を女性のアパートで絞殺。
さらに自分のアパートで彼女の中学生の息子を殺害。
犯行の直前に購入していた成田発の便に搭乗、サンパウロを目指したと見られている。
どこの航空会社を使って日本から逃げ帰ったか。
ブラジル国籍のため、トランジットのアメリカのビザ取得が義務付けられるJALということはなさそうだ。
するとエアーカナダでカナダ経由だろうか。
機内での挙動はどうだったろう。
食事は肉か、魚か。
ドリンクはアルコールを頼んだだろうか。
機内上映映画は、犯罪モノか。
グアルーリョス空港到着後は。
実家のあるサンパウロ州バストスには戻っていないという。
国内線フライトが空前の混乱を呈していた時だ。
しかも飛行機は足がつきやすい。
長距離バスに乗ったか、サンパウロ市近辺に身を潜めているか。
所持金はどれぐらいだろう。
クリスマスをどのように過ごし、何を祈ったか。
日本語新聞の記者諸兄、腕の見せ所ですぜ。


12/29記 ゆるしの前に

ブラジルにて
身辺を少しでも片付けようとする。
かえって散らかるばかりで、呆然。
何年も前の雑誌類を発掘。
こういうのがなかなか捨てられない。
外出の際、メトロで読むために持参した1冊にこんなフレーズが。

(前略)信者たちがよく言うことは「私たちは、迫害した人をゆるす用意があります」ということなのです。私も各教会のなかで信者としてゆるしの種が撒かれるならば、社会はきっと変わっていくであろうと言いました。
 しかし、ゆるすためには、その前に正義が行なわれなければなりません。インドネシア軍が東ティモールの人々に対して犯した罪、殺人、略奪、破壊、レイプなどに対してはきちんとした裁判を行なってほしいのです。ゆるしと同時に正義、正義あるゆるしなくして社会を建設することはできません。正義は目に見える形での正義であるべきなのです。(後略)
「インタビュー 羊たちのために命をささげたい
ノーベル平和賞受賞 カルロス・ベロ司教に聞く」
2000年12月


ベロ司教は当時、東ティモールの司教。
僕があのことを許さないのも、こうした理由による。


12/30記 血まみれの

ブラジルにて
近所のプチ高級スーパーで売っている安物の国産ウオッカを気に入った。
今宵は…
ブラディ・メリーでいってみよう。
超ナチュラルメーカーのトマトジュースはウオッカより高くなるので、その半額のもので。
こちらでタヒチ・レモンと呼ばれているのを絞り込む。
パラナ州産ガーリック・ソースを数滴。
アマゾンはトメアスー・大西農場産のブラックペッパーを挽く。
最後に富士見観音・伊豆大島天然塩を振りかける。
アベマリア、南無観音。
うまい!
諸々の人たちに献杯。


12/31記 伯国師走捕物帖

ブラジルにて
何度か取り上げた静岡での日系ブラジル母子3人惨殺事件。
犯行後、すぐにブラジルに逃げ帰ったネーヴェス容疑者が逮捕されたとの情報。
容疑者の出身地、サンパウロ州バストス市在住の信頼できる筋がブラジルの警察関係者から聞いた。
バストス近くの町で、インターポールに逮捕されたとのこと。
せっかく日本の23倍もあるブラジルに潜り込めたのに、地元に戻ったんじゃあ…
日本での殺人はかなり計画的と見られるが、犯行後のビジョンがお粗末。
さて、当地の邦字紙は年末年始の長期休暇に入っている。
邦字紙記者をステップとして、日本とブラジルの各界に羽ばたいていった人は少なくない。
ジャーナリズムや表現者を目指して自分を試すのには格好の職場といえるだろう。
どこぞの海岸で飲んだくれて、異性交遊に励む若い記者さんは少なくないだろう。
なかには休暇返上でこの格好のネタに取り組んだ記者はいるだろうか?
新年の休暇明けの邦字紙が楽しみだ。


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岡村淳 :  
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