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岡村淳のオフレコ日記
     西暦2019年の日記  (最終更新日 : 2020/05/03)
12月の日記 総集編 洗濯物の美学

12月の日記 総集編 洗濯物の美学 (2020/05/03) 12月1日(日)の記 日曜報告
日本にて


まずは午前中、世田谷の富山妙子さんを訪問。
昨日の大舞台についてのご報告。
やれやれ、これで僕もいくらか肩の荷を下ろした思い。

明日から地方巡礼の開始だ。
未明に祐天寺を発って、みちのくミッション。
山形と宮城をまわって、日帰りに挑戦。
そのあとの西国巡礼の準備も着手しないと。


12月2日(月)の記 みちのく急ぎ旅
日本にて


まさしく未明、午前5時台に祐天寺裏を出家、目黒駅まで歩く。
なんと20分近く山手線のない時間帯に着いてしまった。
ああ、これでは山形新幹線始発に間に合わない!

山手線内にてスマホでチェック。
これから間に合う東北新幹線で仙台まで行って仙山線に乗り換えれば、山形新幹線始発に乗った場合と同じ左沢線に乗れるぞ。
全席指定の東北新幹線、すでに立ち席のみ!
仙台までデッキで罰ゲーム。

寒河江市の施設で暮らす親類を訪ねる。
昨年から認知症が進み、今日も僕のことがわからなくなった。
時間をかけて、記憶の糸口を紡いでいく。
血筋の者の役目だ。
寒河江の親類に、今回もご馳走になるが、あわただしく失礼する。

仙台のアミーゴとの再会を計画。
アミーゴは視力障害者の案内をしているので、遅れる由。
知り合いのお世話と思ったら駅で見かけた人で、その人がトイレに寄りたいとのことでさらに遅れる由。
このアミーゴは実に人がいい。
1時間ばかり、仙台駅構内のカフェで談笑。

なにか虫が知らせて、可能な限り東京に早く戻ることにした。
なんとたいせつな原稿のゲラが迷惑メールとして送られていて、見逃していた!
修正が効くものかどうか、あわてて手を尽くすが…

さあ明日からの西国ミッションの準備もしなければ。


12月3日(火)の記 難波イン
日本にて


さあ今日から西国周りだ。
まずは新幹線で新大阪へ。
梅田の定宿カプセルに荷物を置いて。
徒歩圏の中崎町のカフェ、アラビクさんを訪ねよう。
店主の森内さんに歓迎していただく。

民博で開催されていたという「怪異と妖怪」展、東京で開催中のミイラ展など耳寄りな話をうかがう。
さて夕方の上映準備までに、間に合うかな?
少し無理をして阪急宝塚線岡町駅近くのギャラリーで開催されている小谷孝子さんという画家の「ベネズエラからのたより」展に行ってみる。
在廊中の小谷さんとお話しすると、ブラジルに共通の知人がいて盛り上がる。

大阪神崎川駅近くのみつや商店街のみつや交流邸での上映会。
早く来ていただいたセニョール国司と旧交を温める。
国司さんはチリで拙作上映会を開催され、アルゼンチンでの上映も仕掛けてくれた。
近くのお好み焼き屋さんで、喫茶店価格でお好み焼きとビールを味わう。

今宵の上映は、富山妙子さんの『韓国のスケッチ』と森一浩さんの『サルヴァドールの水彩画』。
見るべき人たちに見てもらえたという思い。
初対面の映画好きだという方から『サルヴァドールの水彩画』をタルコフスキーの『ノスタルジア』と比較して考察するコメントをいただき、たまげる。

上映を主催してくれた「たまい企画」さんに感謝。


12月4日(水)の記 京都発酵
日本にて


今日は午後から京都の立命館大学国際平和ミュージアムにて上映。
さてそれまでどうするか。
大阪のカプセル宿には10時チェックアウトぎりぎりまでいるとして。

荷物もあるし、まだ地方遠征が続くので体力も温存せねば。
山崎のミュージアム、京都のなじみの古書店などに寄ろうと思うが…
美術館は休館中、カライモブックスさんも今日はお休みだ。

まずは大阪駅構内のカフェでまったり過ごす。
京都に行くとごちゃごちゃするだろうから。
京都駅到着後、まず今宵の宿に荷物を置く。
近くに1000円未満でコーヒー付きのランチがあり、腹ごしらえをしよう。

今日の上映の仕掛人、立命館の気鋭の研究者・番匠さんは授業を終えて上映会場のミュージアムにいるという。
まずは会場へ。
「上野誠版画展-『原爆の長崎』への道程―』」という特別展を開催中。
https://www.ritsumeikan-wp-museum.jp/special/2019_1107/
これは見てよかった。
恥ずかしながら上野誠というアーチストを知らなかったが、すごい!
ドイツのケーテ・コルヴィッツの影響を受けたというのがよくわかる。
山本薩男監督の映画『真空地帯』の撮影現場を版画で表しているのにも驚いた。
原爆についての表現も多様で、美術館もある著名な原爆画の画家の作品より、僕には上野さんの作品の方がずっとこころに響いてくる。

おっと、自分の上映会を忘れてしまいそうだ。
会場側の機材に問題があったようで、ポータブルDVDプレイヤーを担いできてよかった。
今回の上映と来年1月の特集上映に備えてあらたに修正した『ビデオレター・グアタパラ編』と『京 サンパウロ』を上映。
番匠さんの設定したテーマは「第二次大戦の記憶の継承」だったので、そのあたりを踏まえたトークをするが、特にこれについての会場側からの突っ込みはなかった。

懇親会の席で、2歳児にスマホで撮ってもらった写真にたまげる。


12月5日(木)の記 松山の幸せ
日本にて


京都のアミーゴがぜひ会いたいと連絡をくれた。
列車の出発まで、京都駅地下のイノダコーヒーで談笑。
トイレ事情が悪く、日本の女性の苦痛をささやかながら身をもって痛感。

松山を目指す。
岡山からの特急は、アンパンマン列車だった!
昨夜の懇親会に参加してくれた2歳児がアンパンマン好きだった。
スマホ撮りして親に送る。

先日、目黒の教会でもらったお知らせに司祭がアンパンマンにちなんで書いていた。
2000年間、自分の体を与え続けている男について。

松山は日帰りで何度か訪ねている。
だが松山城と道後温泉を案内してもらった程度で、土地勘もない。
まず宿に荷物を置こうと思うが、市電を乗り間違えてしまった。
いやはや。

松山市駅で降りて、お目当ての愛媛県美術館が至近なので荷物を引きずって歩く。
開催中の千住博展をみるのが今回の四国ミッション。
あ、初期にトンボも描いていたことは見逃していたな。

「えひめの障がい者アート展」というのも開催しているので、見てみる。
こちらは観客より受付スタッフの方が多い。
気に入った作品三つの番号を書いてくださいと紙を渡されるが、なかなかむずかしい。
相当数の作品で、僕の琴線に触れるものを三つに絞るのはたいへん。
さまざまな障害をもつ人の作品のようで、それぞれの作者がどんな障害をもつのかはわからない。
スタッフが来て解説をしてくれるが、少しでも話をうかがうとずっと面白く深く鑑賞できる。

いかにも入社したてな感のあるスーツ姿の女性の全国紙の記者の取材を受ける。
他に観客もおらず、よりによってヘンなのが引っ掛かって、お気の毒。
いくつかの作品の前で、写真用のポーズ。

さああとは宿に行くだけだ。
美術館併設のカフェで千住作品にインスパイアされたというドリンクをいただきながら、資料類の整理。

ネットで格安かつ温泉付きの宿を予約していた。
この美術館は松山城をいただく勝山の南西にあるが、ホテルは北にある。
すこし松山のトポグラフィーがわかってきた。

宿はずばり勝山の北斜面の真下。
斜面の植生が迫ってくる絶妙な場所なり。
温泉は奥道後温泉から4キロ以上のパイプで送られてきているという。

屋上の露天風呂、3階の大浴場ともにアットホームな広さ。
延々歩いてきたときも閑散としていたが、フロントで聞いても近くにこれといった食べ物屋はないという。
いっぽうホテルのレストランで1500円の夕食バイキングがある。
今日はアルコール類、飲み放題!の由。
8時までだ、急げ!

土木作業で泊まり込んでいる風のおじさんたち、経費節約型のサラリーマン諸氏、旅慣れたガイジン客らに混じる。
麦焼酎2杯、芋焼酎1杯のしあわせ。

部屋に、虫が入るので窓をあけないでくださいの注意書き。
虫を寄せたい、入れたい客もいる。
すでに蛾の一匹とて飛来しない季節なれど。

このホテルは、当たりだったな。
入湯瞑想のしあわせ。
大衆の喜び。


12月6日(金)の記 松山巡礼
日本にて


松山にて、未明にホテルを出る。
昨日、見た千住博画伯の高野山金剛峰寺障壁画展。
会場で流される動画で千住師は空海を語っていた。

そうだ、ここは空海の築いた八十八カ所霊場の島ではないか。
徒歩圏に札所の寺はありや?
おう、道後温泉の先にブラジル人受けする51番!の札所、石手寺(いしてじ)というのがあるぞ。
1時間も歩けば着けそうだ。

朝まだきの坊ちゃんの街を、粛々と歩く。
ほう、ここか。
所せましのごちゃごちゃ感がいい寺だ。

境内を掃き清める人がいるぐらいで、さすがにまだ巡礼者もいない。
洞窟もあるのだが、午前7時に来るはずの担当が今日はまだ来ていない由。
憲法9条と仏教、といった冊子が take free で置かれている。
真言仏教界にも心強い先達がいるようだ。

いったん宿に戻って入湯、朝食。
バイキングの朝食は、夕食に勝るとも劣らない質量。
朝から中華系、チャーハンも。
チャイニーズ客が多いのかな。

松山のカトリック事情を調べておいた。
カトリック松山教会というのがあり、「初金」は朝のミサがあるとウエブサイトに書かれている。
教会のウエブサイトは信用ならないので、電話で確認。

ホテルをチェックアウト、荷物を引きずりながら松山城のある勝山の東縁を南下。
トイレに寄りたいと思ってわざわざ買い物までしたコンビニは、トイレがないという。
教会は概して身内以外にトイレが開かれていないし、いやはや。

教会にたどり着くと、東南アジア人らしい司祭がすでに祭壇に上がり、聖歌の練習をしている。
あとで地元の大学生とわかるが、しぶしぶ座り込んでいる感たっぷりの若者たちが聖堂の椅子の大半を占拠している。
司祭と音楽担当の信徒らが意思の疎通を欠き、険悪なムードに息を呑む。

大学生たちは授業としてミサ見学に来たことを知る。
後に調べるとミッション系ではない私立大学で、そもそも事前の学習も打ち合わせもできていないまま100人近い学生を連れてきたようで、聖体拝領のときは混乱を極める。
カトリックのミサも信仰もナメられたものだ。

さて、松山駅まで、荷物を引きずって。
午後の倉敷行きに間に合いそうだ。
駅あたりを歩くとモーニングサービスを12時、さらに13時まで実施している店あり。
恩恵にあずかる。

上りの特急はアンパンマン号ではなかった。
まず岡山の宿にチェックイン、荷物を置く。
入口はわかりにくかったが、ゆったり感のあるキャビン式の安宿。

さあ倉敷の蟲文庫さんへ。
店主の田中美穂さんは骨折、入院、閉店が続いていた。
お見舞いも兼ねて。
蟲時空を堪能。

明日の長島上映に奔走してくれた赤木さんから連絡をいただく。
宿近くで安飯でもと下見をしておく。
と、会わせたい人がいる由。
その方のお宅まで歩く。

初対面の方のお宅でごちそうになってしまい。
ヒバゴンの話などで盛り上がる。
赤木さんはなかなかの目利きで、出会いのプロデューサーだ。


12月7日(土)の記 長島のさざなみ
日本にて


岡山のシンパの赤木さんが今日のためにレンタカーを借りてくれた。
赤木号で長島に向かう。

ああ、岡山長島さざなみハウスでの拙作上映がかなう。
長島愛生園の入居者の方々と一般の方々にともに拙作を鑑賞していただく、という僕の理想が実現する。
モーニングサービス時間中に到着。
こちらのモーニングは、午前中。
カフェを切り盛りする槍屋さんと再会。

赤木さんと窓辺:海側でカフェをいただきながら、まずはまったり。
会場設営。
ううむ、海側の外光がじゅうぶんに遮断できない。
慣れてもらうしかないか。

今日は僕のチョイスで『ブラジル移民のひとり芝居』と『60年目の東京物語』を上映。
来場者からの質疑応答、絶えず。

幕間に後方のソファに座っている入居者の方々のところに。
かつて入居者たちで歌舞伎を上演した思い出などを聴かせていただく。
当時は会館の舞台が両側にあり、ハンセン病患者とそれ以外の人たちの演じる舞台が分けられていたという。

岡山駅方面に戻る方々といっしょに、赤木号で岡山市内へ。
赤木さん、鑓屋さんと楽しく会食。
そのあとにつれていっていただいたバーが絶品だった。
店の名はバーコントワール。
https://okayama.keizai.biz/headline/765/?fbclid=IwAR0CQJ_ijyXTy1O5e4ttElArxHUrOWBESo3vShOMN3FPzK6hziFUuY2WJrs
マスターにお任せしたカクテル、絶妙!
赤木さんのおすすめは、まず間違いがない。

いい気分で岡山駅。
寝台特急サンライズの入線を待つ。
久しぶりにこれの指定が取れた。


12月8日(日)の記 水戸開戦
日本にて


寝台特急サンライズのノビノビシート。
眠りは浅い。
隣に横たわる若者の性別がわからず、距離感がむずかしかった。

横浜で下車。
在来線に乗り換えて、品川経由で目黒駅へ。
目黒教会の早朝のミサに間に合った。

実家に戻って荷物を仕切り直し、さあ水戸へ。
東急バスの時刻表を信じて失敗。
予定していた品川発の常磐線を逃す。

水戸駅に常連の室賀さんに車でお迎えに来ていただき、遅刻時間を短縮できた。
開始時間に数分遅れて、にのまえさんイン。
常連に混じって、ニューフェイスもちらほら。

富山妙子さんの『韓国のスケッチ』、ついで『ブラジルのハラボジ』を上映。
鋭いコメントをたくさんいただく。
僕と作品はこうして成長していく。
ありがたし。

東京からいらしていただいた夫妻と、宿まで深夜の水戸路を歩く。


12月9日(月)の記 帰京と執筆
日本にて


朝食納豆食べ放題の水戸のビジネスホテル「みまつ」にて。
東京から昨夕の上映に参加してくれた夫妻と談笑しながら納豆をいただく。

せっかく水戸まで来たのだから、神立の櫻田さんの学校などに寄りたいところ。
しかし1月の特集上映のチラシ配りの件等々、離日が迫って残務山積み。
JRレイルパスの使用は昨日までだったので、鈍行列車にて帰京。

実家にてノートパソコンを開く。
各地への連絡、そして来たる1月の特集上映の素材づくり。
富山妙子さん関連作品の改訂版作成から着手しよう。

来年1月のギャラリー古藤さんでの特集上映の上映作品は長短合わせて30本!
いくつかつくり直しをするつもりだが、用意できるものをそろえて明日、納品しようと決心。


12月10日(火)の記 井草に上下あり
日本にて


昨日からわずかな仮眠をはさんで1月の上映素材をそろえている。
まずはストックスペースから発掘…
再生に問題がないか、クリーニングをしてDVDデッキでチェック。
これをバックアップも合わせて2組、用意することにした。

いやはやなかなかの作業となり、朝になっても終わらない。
午前中の予定を後日にまわそう。

今日は午後から、1月のおかむら上映まつりで講談を披露してくれるという野村さんが「いぐさの細道」というカフェで一席披露されるという。
上映チラシの野村さんの「岡村ファン」という肩書がウケている。
いずれにしろ僕はまだ野村さんの実演を拝聴したことがないので、うかがうことにした。

さて、井草というのはどう行くのか。
最短最安の方法をスマホで調べて…
高田馬場で西武線に乗り換えて、まず急行に乗ってひとつ目で乗り換えるのがいいようだ。
そもそも僕は東京で生まれ育ったとはいえ、城南地区のため、西武線と東武線など、城北圏はよくわからない。

カフェは駅の南側、郵便局の脇の小径を入るべしとのこと。
下井草駅下車、駅の掲示板で郵便局の位置をつかんで行ってみるが、それらしい小径がない。
あらためてスマホを繰ると、上井草駅だった!
下井草の次は井荻駅でその次が上井草なのか。
まあ、こんないいぐさをしていても遅れるばかり。
12時半までにお店に着けばおいしい昼食もいただけるとのことだったが…

13時過ぎにたどり着くが、すでにイベントの準備であわただしくなっていた。
そもそも今日のイベントのことがよくわからなかったが、野村さんの所属する朗読教室の発表会のようだ。
着物姿の野村さんがトリとして赤穂浪士の講談をぶつ由。

朗読の発表が続く。
先日の山川建夫さんの朗読教室といい、ここのところ朗読づいた。
ロードクムービーでも?

韓国の親不孝のアマガエルの絵本の朗読が、いたくよかった。
イベント終了後にコメントを求められて、ブラジルから来たこと、韓国のアマガエルの話がとてもよかったことを述べる。
なんと朗読教室の先生は現代座の公演でブラジルに遠征したというではないか。
カエルの朗読をした人は、富山妙子さんをご存じだった。
犬もあるけば富山妙子、である。

野村さんは幣原喜重郎とマッカーサーについての講談をするつもりが、赤穂浪士になったという。
1月はぜひ幣原喜重郎とマックでお願いしますと伝えておく。

イベント後にお店の「そぼろ丼」をいただくが、これがたしかにおいしい。
料理にもお店の細部にも気配りとセンスのよさがうかがえる。
ブラジルに帰ったら真似してみよう。

このイベントに参加されたギャラリー古藤の大崎さんと、ギャラリーへ。
1月のおかむらまつりの上映素材納品。
チラシの増刷分をいただき、打合せ。

帰路、中目黒のカフェ、アンダー・ザ・マットさんに滑り込み、チラシをお願いする。
実家に戻り、緊急に頼まれた原稿の構想を練りつつ、さっそく書き始め。


12月11日(水)の記 2019年上映おさめ
日本にて


朝、まずは世田谷の富山妙子さんのところに暇乞いに。
いつのまにかお宅が停電になっていることに気づく。
イヤハヤ。
停電のまま、齢98歳の車椅子生活の人をひとりで置いていくわけにもいかない。

今日は午後から地元目黒での上映の準備、その前に渋谷での買い物も予定していた。
さあどうしよう。
近所の様子をうかがうと、どうやら停電はこのお宅だけのようだ。
聞き込みを続けているうちにお宅の配電盤の位置がわかる。
そっちの方にうとい僕でも解決できるレベルの停電だった。
なぜブレーカーが切れたのかは、ナゾ。

いつになく富山さんにしっかりと手を握られる。
僕がお宅を出た後も窓から見送ってくれて「さようなら」と大きな声を出された。
今までの暇乞いでは、なかったこと。

渋谷での買い物のあと、実家に戻って上映の機材、備品の準備。
流浪堂さんには有志が上映の準備のサポートに来てくれていて、ありがたい限り。
今日は2階の広い会場。
まさしく一期一会の集い。
上京中の大阪のシンパも来てくれた。
『富山妙子 韓国のスケッチ』と『いいと思います 中馬一美さんのおえかき』の2本を上映。
刺激的なコメントをいくつもちょうだいした。

『いいと思います』が幸せな家族の記録、と見ていただく理由がわかってきた。
世の母と娘には、コミュニケーションを欠くどころか憎しみに近い感情を持つ場合もあることを教えてもらう。

最安1980yenからという、しゃぶしゃぶチェーンを懇親会場としてみた。
これがなかなか面白く、参加者にも好評。
今年もありがとうございました。


12月12日(木)の記 離日前日の奔走
日本にて


さあ離日前日。

お隣の学芸大学に用足しに。
お気に入り喫茶「平均律」さんにご挨拶。
ただいまお店で個展開催中の記載、鶴田陽子さんがお店にいらした。
鶴田さんのほとばしる創作力には、舌を巻くばかり。

ついで本郷三丁目駅下車。
今後の打ち合わせ。

お次は下高井戸。
下高井戸シネマさんに来年1月の岡村特集上映のチラシを置いていただくようお願いする。
ついでに上映中の『アートのお値段』を鑑賞。
アートの価格と価値は違う、とな。
なるほど。


12月13日(金)の記 離日当日の奔走
日本→


成田からのフライトは23時過ぎ。
いつもより遅く、16時過ぎに目黒の実家を出れば余裕だろう。

1月の特集上映のチラシ郵送作業を片付けて、混乱を極める実家の使用スペースのお片付け。
徒歩圏の銀行、買い物、そして coffee caraway さんにご挨拶。

16時過ぎに実家の前のバス通りで流しのタクシーを待つ。
わがスマホでは日本のタクシーアプリをダウンロードできない。
これまで5-10分待ちぐらいで空車を拾えているが、いつも不安あり。

渋谷マークシティの乗り場へ。
夕方のラッシュ時のせいか、二子玉川からのバスが遅れている。
1時間、早いバスにしておいたので、支障はなし。

実家の出がけにおどろおどろしい負の情念が書き綴られた手紙が届いた。
書き手の誤解と我田引水がはなはだしい。
先方はフェイスブックのページも持っているが、どうやら自分ではいじっていないようだ。
今回も先方の無理無体ないくつもの依頼にけっこう大変な思いをしながら応じたものの、御礼どころか…
僕へのうらみつらみはこちらの不徳のいたすところとしようと思うが、先方が感謝すべき人にも邪念が向けられている。
おかしいことは、おかしい。

思い返せばこの差出人は、これまでも何度か常軌を逸した越権行為に及びそうになったのを、知らせてくれた仲間とともに懸命に食い止めたことがある。
もちろん先方の記憶の棚にはないことだろう。
成田空港で官製はがきを買って、返信をしたためて投函。

邪気はすぐに払うに限る。


12月14日(土)の記 税関の狭き門
→トルコ→ブラジル


トルコ航空の機内映画、白眉は『パシフィック・リム:アップライジング』。
前作はさしてノレず、今回も期待はなしで。
ところがところが。
脚本がよく、登場人物それぞれが魅力的なのだ。
ハリウッド版ゴジラにも、これぐらいの脚本で挑んでもらいたかった。

往路はアラビアンナイトの世界なみとぶったまげたイスタンブール空港のラウンジ。
帰路は8時間余りのトランジット、さすがに飽きる。
機内でだいぶ汗ばんだが、このラウンジにはシャワールームは見当たらず。

サンパウロのグアルーリョス空港着は、午後10時。
横並びの到着機がなく、がらんとしているが…
ナント全乗客が税関の荷物エックス線検査にまわされた。

いやはや。
税官吏がヒマなせいか、仕事してるぞのポーズか、トルコからもヤバい荷物持参者が少なくないせいか…
持参した海産物類、没収。
奇跡的にお節料理用にフンパツしたブツはチェックを免れた…
もうトルコ航空はやめるかな。


12月15日(日)の記 聖市主日再開
ブラジルにて


サンパウロの我が家にたどり着いて、さっそく日付は日曜日。
午前中はこちらの通常日曜モードで動くが、午後は休ませてもらう。

冷蔵庫にヤマイモの残りなどもあり、昼はありあわせのものでお好み焼きをこさえる。

本来は猛暑の時期だが、暑さ控えめでとりあえずはありがたいけど。


12月16日(月)の記 三たびのハラボジ
ブラジルにて


涼しいというより、ひんやりとした冷夏のサンパウロ。
未明に黒澤明DVDコレクションの『野良犬』を鑑賞。
三分の一ぐらいのセリフは聞き取れないかも。
日本語字幕のオプションのあるシリーズであってほしかった。
クライマックスのシーンは東京世田谷あたりのお屋敷地帯かと思い込んでいたが、大船近郊の新開地のようだな。
今夏のサンパウロと違って、暑苦しさ感があふれる。

さあさっそく一日断食をしよう。
来月のギャラリー古藤さんでの特集上映にて、作品修正の要のあるものの作業に着手。
まずは『ブラジルのハラボジ』。
主人公の三田ハラボジの発言で、僕が「(不明)」と字幕を施したところについて、水戸の眞家さんご夫妻から新たにご教示をいただいた。

ざっと振り返るに、この作品の三度目の手直しになるかな。
初版は EDIROL という編集システムで作成、それがオシャカになり、EDIUS に新たに取り込んでの作業。
字幕の字体や色味など、完全にはカバーできないが、まあカンベンしてもらおう。

さてお次は『郷愁は夢のなかで』の改定作業。
これの初版作成は西暦1998年、日本の編集スタジオでの作業だった。
まずは撮影素材テープも探し出さねば。
さあ、なんとかなるかどうか…


12月17日(火)の記 ハラボジの亡霊
ブラジルにて


昨日、焼いた『ブラジルのハラボジ』改訂版のDVDを再生してみてびっくり。
消したはずのデータが写りこんでいるではないか。

ありえないことだが、こうしてありえている。
以前も似たようなことがあったな。
さあ、どうしよう…

編集データを別名保存して焼き直してみる。
どうやらこれで底なし沼を乗り切れたようだ。

続いて改定作業に入った『郷愁は夢のなかで』は最初の問題個所の改定作業をなんとかパス。

家族の夕食は豚肉の塩麴漬け焼き。
自分は時差ぼけの眠気で、食べずに寝てしまう。


12月18日(水)の記 ブラジルのそぼろ
ブラジルにて


12月半ばからは、なにかと祝い事が続く。
今日は家族のお祝いごとの日だが、全員がそろわない。

さて夕食は何にしよう。
時差ぼけでまた夕刻からひどい眠気に襲われるが、なんとか…

先日、上井草のカフェ「いぐさの細道」さんでいただいたそぼろ丼が絶妙だった。
類似のものをつくってみよう。
卵はある、冷凍庫に豚ひき肉の残りはある、「あおさ」は新たに日本から買ってきた。
伯(ブラジル)産米酢を日本食品店で購入して。
鮨酢の分量をネットで調べて。
大さじ、小さじというのがいまだによくわからないけれども。

おかげさまで好評。
あおさのみどりみどりさがヴィジュアルにも美しく、香ばしくおいしい。
「あおさ」と「あおのり」の相違は…
調べてみると、ややこしいぞ。
「青のり」としているものの方が香りもよく、高級のようだが。


12月19日(木)の記 韓国のひかりの街
ブラジルにて


日中は粛々と『郷愁は夢のなかで』改訂版作成作業。
DVカムテープに変換しておいたマスター素材をあらたにminiDVテープに落としてパソコンに取り込んでの作業。
時おり、音声のドロップアウトがある。
該当箇所の撮影テープを探して、該当部を当て込んでいく、というのがメインとなった。
今のところ致命的な問題は、なし。

夜は家族でコリアンレストランに行くことに。
アプリでクルマを呼んでいくので、アルコールも飲めるぞ。
今宵のチョイスは「BICOL」という老舗で評判も値段もいい店。
BICOL とは光の街を意味するそうだ。

先月の店より高級感。
東アジア系のグループ客でにぎわっている。
清酒をいただくか。

喧騒の店内だが、後部の座席から日本語のダミ声が聞こえる。
日本人の駐在員たちのようだ。
どこそこで食べた飯がどうだった、というような話を延々としている。

30余年前、自分がテレビ取材班としてサンパウロに滞在していた頃を想い出す。
あー、いやだいやだ。
年配のカメラマンにねちねちといじめられて、東京からは無体な命令の数々。
あの頃、高級コリアンレストランには行かなかったけれども。
ひかりを欠く日々だったな。

自由バンザイ!


12月20日(金)の記 師走のお泊り
ブラジルにて


昼過ぎまで『郷愁は夢のなかで』改訂版作成作業。
午後、渡しもののあるアミーゴとカフェ。

夕方から連れ合いの実家へ。
夕食をつくり、付き添い。
サバの塩焼き、大根菜飯、モヤシの辛子味お浸しなど。

読むべき本はいろいろある。
何冊か持参するが、さして読み進まずに眠りにつく。


12月21日(土)の記 松ぼっくりのプレゼピオ
ブラジルにて


連れ合いの実家から、いったんわが家に戻って。
義母の携帯電話のバッテリー交換作業を仰せつかることになった。

場所はダウンタウンのややヤバいところ。
クリスマスと年末の休暇の時期だが、ウエブサイトでみると営業している由。

サンベント駅を降りると、いつものヤバさ感とは違う空気。
すでに休暇に入った人が多いのだろうが、油断はできない。

アイフォン専門の修理オフィスへ。
通常は土曜の昼時がいちばん混み合うようだが、今日はすんなりと技術者のところにまわされる。
担当はアフロでパンクな風体のお姉さんで、失礼ながら大丈夫かいなと思う。

ところがバッテリーを変える必要があるのかもチェックしてくれる。
充電が100パーセントになったら充電器から外しておくこと、再充電は容量が10-15パーセントになってからにすることなどのアドバイスもいただく。
自分のバッテリーを変えた時の担当よりよっぽどよかった。

帰路の「お茶の水橋」。
手工芸品の出店が並ぶ。
こちらの、日本より大きい松ぼっくりをクリスマスツリーに見立てたプレゼピオ(キリスト誕生のシーンの模型)がある。
聖家族が白人ではなく、モレーノ(褐色)なのがよろしい。
手ごろな金額なので、いくつか購入。

売り子のお姉さんの身内がつくっている由。
「(肌が)黄色いのもあってもいいんじゃない?」
と言うと、自分の身内に日系とのミックスがいるのでそれはいいアイデアだと返してきた。

夕方、徒歩圏のカトリック教会のミサにあずかる。
ひとりでの祈りの時間、気づきのチャンス。

先の訪日直前より日本のテレビ局からいくつかの依頼があった。
不審な点がいくつもあり、わが人間関係にも問題が生じてむかついていた。
毅然とした態度を取ろう。


12月22日(日)の記 南回帰線下夏至日和
ブラジルにて


明け方に目覚める。
朝焼けのただならぬ色合いと輝きに、スマホのカメラを向ける。

あ、そういえば。
今日はこちらの夏至だな。

ブラジルで近年、妙な日差しの違いと美しさを感じるとき、ちょうど夏至や冬至だと気づくことしばしば。
先史人はこの僕よりケタ違いにそれを感じたのではないか。

日中はひたすら『郷愁は夢のなかで』の改訂版作成作業。

夜は自家製ラーメン。
好評なり、たしかにおいしい。


12月23日(月)の記 ブラジルの守護聖人
ブラジルにて


『郷愁は夢のなかで』改訂版作成はゴール近し。

サンパウロのイベントの小冊子を繰って。
年末年始は美術展系は控えめだ。
映画欄を見ると…

ブラジルのカトリックをテーマにしたドキュメンタリー映画があるではないか。
しかも、一館でいっきに4本も!
この機会を逃すと、もう観れなさそうだ。

場所はあまりアクセスと治安のよろしくないダウンタウンのショッピングセンターのシネコン。
思い切るか。
水筒にお茶を入れて。

4本とも同じ監督で、どれも72分という同じ長さ。
テレビ放送のシリーズだったのかもしれない。
ハッタリくささのない、いわば教養ドキュメンタリー。
日本の一般日本人に比べればカトリックになじんでるつもりだが、知らないことが多い。
たとえば少しブラジル通になれば、ブラジルの守護聖母はアパレシーダの聖母マリアだと知るだろう。
して、ブラジルの守護聖人(Padreiro do Brasil)は?
アルカンタラの聖ペドロだと知る。

4本の最後の上映は22時から。
深夜はヤバいし、体力的限界もあろうから、見れるだけにしておこうと思うが…
150人は入るコヤで、3本目4本目は僕一人だけだった!

ヴァチカンの発表によると世界で最大のカトリック信徒数を誇るのがブラジル。
その南半球最大の都市のシネコンで、クリスマスイブの前日にこの佳作を見るのは日本人一人とは。

ぶじにわが家に生還。


12月24日(火)の記 決死のクリスマスイブ
ブラジルにて


夕方より連れ合いの実家に親族が集ってのクリスマスイブの晩餐会。
クルマで行くとなると…

近年のサンパウロの飲酒運転の罰則の厳しさは日本どころではないといわれている。
連れ合いの知人は検問に引っかかり、正直に数時間前にアルコールを軽く飲んだと告げるとアルコール度数の検査なしに検挙されたとのこと。
外国旅行の飛行機代ほどの罰金と一年間の免許停止を喰らった由。

くわばらくわばら。
アルコールをあきらめるか。
あるいは到着後、さっそく「軽く」飲んであとはすっかり冷ますか…

まだ食事が始まる前、もうワインはこれっきりと決意した後に、異国から来たキライではない親類になみなみと注がれてしまった。
妻子も今になって警察の取り締まりはクリスマスの乾杯のあと、0時過ぎからだと言い出した。
こちらは日系家族なので、そんなに遅くまでどんちゃんやるつもりはない。

かるく仮眠。
まだ24日のうちに、交通量の緩い街を運転。
この時期は交通量が少ないのはいいが、クレイジーな運転をするのがチラホラ、これがヤバい。

いやはや、無事に帰宅。


12月25日(水)の記 冷夏のサマークリスマス
ブラジルにて


家族全員で早朝のクリスマスのミサに出席。
さすがに早朝の部は人が少ない。
そのまま連れ合いの実家のクリスマス昼食会の準備に。

今日はまさしく「軽く」飲む。
ほどほどに冷めて、まだ明るいうちに実家に戻る。

クリスマスぐらいまでに、ということにしていた日本で頼まれた原稿を書かないと。
「また」返り血を浴びかねないネタを書き込むつもり。
ふと閃いて。
この際、ボツになりかねない内容としてみるか。


12月26日(木)の記 未来への伝言
ブラジルにて


さあ、原稿書きだ。
字数1000字だから、そうあれもこれも書けない。

在日本の画家の富山妙子さんについて。
とりあえず字あまりで書き上げる。

冒頭の、これまたドギツい部分をばっさり落とせばちょうどかな。
日本の時局柄、リライトを要求されるかもしれない。
推敲はそこそこにして、とにかくいったん送信しておこう。

明日からノートパソコンから離れることだし。


12月27日(金)の記 海岸山脈の『出ニッポン記』
ブラジルにて


夫婦で一族のお年寄りを連れて郊外の宿で今日から一泊する予定だった。
この時期に空いていて、三人が泊まれて、値段もそこそこで…
それなりに努力して宿を確保してあった。

早朝、電話があってドタキャンを伝えられる。
すでに料金は支払い済み。
夫婦だけで行くと、お年寄りの夜の付き添いをする人を用意しなければならない。
イヤハヤ。

いろいろあって、とにかく昼前に夫妻で出る。
ラポーゾ・タバレス街道の途中で昼食をと思うが、街道沿いに飯処がみあたらない。

すでに宿近く、料金所のすぐ先に会った邦訳「肥満鶏」という名のレストランへ。
カマドであたためた家庭料理が食べ放題。
窓越しの緑も心地よい。

さて、宿の方は…
ふむ、あの料金だけのことはある。
狭い傾斜地の駐車場。

部屋はカビ臭く、窓は一カ所だけ。
こうした宿にしては敷地が異常に狭い…
別料金で夕食が食べられるだろうとふんでいたが、NG。
街からの宅配ピザは配達料10レアイス取られるという。

夜の山道を近からぬ街までクルマで食べに行って、酒も飲めずじゃあ。
けっきょく昼たらふく食べたので、夜は抜く。

居室は息苦しいが、階上の異常に広いサロンが心地よい。
他に利用者もなく、夫妻ででれんと読書。

ギャラリー古藤さんでの特集上映と対談での課題図書。
上野英信『出ニッポン記』を読み直す。
文庫にして600ページ。

面白いことに、上野英信はあえて書いていないことがある。
上野は南米の旅で出会う炭鉱離職者たちそれぞれの歩みを詳細に記載している。
いっぽう旅の最初に出合うサンパウロ近郊の炭鉱離職者たちの居住場所は記していないのだ。

わが今宵の宿の場所は日本語のアプリだと「サンロケ」と表記される。
前後の記載から、おそらく上野が最初に訪ねた人たちの居所はここからそう遠くないだろう。
記載の重さが違ってくる。

冷夏のゆえか、外のカエルの声も乏しい。


12月28日(土)の記 教会で嗅ぐ
ブラジルにて


今回の宿の部屋は窓はひとつで、寝台から遠い。
そのせいか、せっかく海岸山脈に来ながら、早朝の野鳥の鳴き声に気づくこともなかった。
ゆっくりたっぷり朝食をいただき、『出ニッポン記』を読む。
チェックアウトは11時まで。

午後、帰宅。
醤油味のものが食べたい。
冷蔵庫に自家製ラーメンの汁、冷凍庫にブラジル製生ラーメンがある。
つけ麵にしていただき、満足。

28日は聖ユダ・タダイの祭日だ。
徒歩圏にある聖ユダ・タダイ聖堂のミサにあずかってみよう。
17時からのミサ、時間前に着くが聖堂内はぎっしり。
年配の女性が多い。
3-4人掛けの長椅子が並ぶが、左前列に真ん中が空いたところがあった。

そこに入れてもらうと、異臭。
しばらく入浴していない、路上系の人の臭いのようだ。
僕の右横の女性は裸足で、前方に大袋を並べている。
彼女と臭いを避けて、この席は空いていたようだ。

今さらこの席を立つのもはばかられる。
ミサがはじまる。
起立すべき時も、隣のおばさんは座り込んでいる。

この聖堂は緩く空調が効いているので、おばさんは休みに来ているのか。
正直に告白すると、僕の懸念はミサの後半の「平和の挨拶」で近くの列席者と握手を交わす時にどうするかだった。
にこやかにこのおばさんとも手を握り挨拶すべきだろう…

おや、このミサでは平和の挨拶は省かれた。
ミサ中、おばさんは座って目を閉じて眠っていたようで、挨拶の時も応じなかっただろう。

イタリアのフィレンツェの街なかの教会のミサを思い出す。
いかにも路上生活者らしいおじさんがミサの際、最前列にいた。
ミサ終了後、神父がミサ中の献金からいくばくかをおじさんに渡していた。

社会的弱者をうんぬんするのはけっこうだ。
が、たとえばこの人たちの臭いに接してもそれを貫けるか。
この人たちと握手とハグができるか。

イエスのありかは。
覚悟も定見もない自分のありかたが問われる。


12月29日(日)の記 洗濯物の美学
ブラジルにて


昨晩みた黒澤明DVDコレクション『酔いどれ天使』の付属マガジンを読みつつ反芻。
映画少年時代、クロサワとの最初の頃の出会いの作品だ。
名画座のプログラムの都合で、続けざまに複数回みた覚えがある。

この映画は三船演ずるヤクザの魅力に言及されることが多いが、僕は志村喬の町医者がいい。
すでに記憶があいまいなところをいくつも更新。
「アメリカ映画」『犬ヶ島』で使われていたこの映画の曲は山本礼三郎の『人殺しの歌』ではなく、山本扮する兄貴の登場する前に爪弾かれていた曲だった。

すでに記憶になかったが、クライマックスの洗濯ものがぶら下がる物干し台のシーンにはたまげた。
今年9月7日付の拙日記でイタリアのソレントでの洗濯物インスタレーションについて書いたが、大クロサワは1947年にこれをやっていた。

拙作のなかに洗濯もののシーンありや。
あるある、『あもーる あもれいら』シリーズのそこかしこ。
『橋本梧郎と水底の滝』の第一部にもあるな。
正直、『酔いどれ天使』のことは忘れていたけど。

さあ来たる1月のわが特集上映のプログラムをテキストにつくり直す作業にかからないと。


12月30日(月)の記 晦日のつけ麺
ブラジルにて


1月のギャラリー古藤さんでの特集上映のデータをワードで入力。
全30本の上映作品のそれぞれの概要も書き込むため、そこそこの作業だ。
いまさらながら自分用も含めて、チラシそのものの画像データの他にテキストデータのものもあった方がいいと気づいた次第。

年末年始休暇で日中も在宅の家族が増えた。
朝昼晩と食事の支度。
去年は年末から僕は身勝手な用事で訪日してしまった。

夜は、自家製つけ麺ということに。
ブラジル製生ラーメン、ブラジル製ナルトを求めて近くの日本食材店三軒をまわる。
生ラーメンはうち一軒のみに、ひとつだけ残っていた。
ナルトはどこにもない。
おせち風料理をつくる層に買われてしまったようだ。
カマボコ、チクワはあるが…
「東洋人街まで行ったけどどこもカマボコは売り切れで」というポルトガル語の日系人のおばさんの声が聞こえる。
しょうがない、ブラジル製カマボコを購入。

冷凍庫にあった豚の小間切れだと思った肉塊は豚カルビだった。
これをショウガ、ネギ、ニンニク、醤油でたっぷりと煮る。
いいスープができたし、ゆで卵の色付けにもよろしい。
先日、骨付き鶏肉の料理の残りを使ってこさえて、さらに日本から担いでいた「味覇」を足したスープの残りもある。
冷蔵庫に残っているモヤシをゆでて、乾燥わかめをもどして。
いやはや、これはおいしい。
やわらかく、味のしみた豚肉がまたよろし。


12月31日(火)の記 12時間遅れで
ブラジルにて


ブラジルの大晦日。
サンパウロは日本に12時間遅れ。

担当と面識のある日本のメディアにギャラリー古藤の徳重上映の案内を送ったところ、ひとつからさっそく返信をいただいた。
日本の大晦日にも作業してもらって、申し訳ない思い。

ギャラリー古藤の連日のゲストトークのそれぞれのタイトルを決めていなかった。
いくつか案を絞っておのおのがたに送信。

山川建夫さんの追加撮影の映像の編集は来年いちばんの作業とするか。
わが家今年最後の晩餐は、豚肉のローストとする。


 


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