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岡村淳のオフレコ日記
     西暦2021年の日記  (最終更新日 : 2022/01/02)
11月の日記 総集編 富山妙子 百年の航海

11月の日記 総集編 富山妙子 百年の航海 (2021/11/02) 11月1日(月)の記ノヴェンバー・ステップ2021
ブラジルにて


岸田自公政権から切り捨てられたと言っていい在外邦人の一人だが。
されど祖国の総選挙の経過に一喜一憂し、一夜が明けて。

月曜にして、11月の始まりだ。
今月20日から予定している富山妙子さん関連の拙作オンライン上映の準備に本腰を入れる。

まだ詳細を決定して発表するには至っていないのだが。
先月、発覚した諸々の技術的トラブルもあり、ひやひやである。

…とりあえず最初の作業は裏ワザを用いなくてよさそうだ。
われながらあきれるほど、作品のデータがこんがらがっている。

積年の懸念だったものを、書留便にて発送。
先方は返却には及ばないとも言ってくれたが、甘えっぱなしというわけにはいかない。

こうした未処理事項をためておくと、思わぬトラブルを誘発するような気がする。
と、日本のプログラムのチーフがパソコン事故に遭遇したとのフェイスブックの報。
…僕の身代わりになってくれたのか?…


11月2日(火)の記 『ハトよ天まで』
ブラジルにて


今日のブラジルは「死者の日」の休日。
早朝、ようやく手塚治虫さんの『ハトよ天まで』を読み上げる。

1990年発行の中公コミックス愛蔵版で堂々700ページ。
単行本だと3巻に分かれているようだ。
ふつう、マンガは数時間程度で読み終えてしまう。
これは、読めども読めども…

初出は前世紀の東京オリンピックの開かれた1964年から1967年まで。
なんと『サンケイ新聞』の連載。
いっぽう手塚さんは『赤旗』にもマンガを連載している。

今日の表現者で、サンケイ新聞にも赤旗にも書ける人はいるだろうか?
どっちも、僕にはほとんど手にする機会がないけれど。

この本はどこか日本の古本屋さんで買ったのは覚えているが、どこだったか。
手塚さんは日本の民話調の作品に挑戦したと「はじめに」に書いている。
マンガと、枠外の長めの文章がちゃんぽんになっている異例の形式。
そんなこともあって、なかなか読み進めないでいた。

パンデミック前の「日常」のあわただしいこちらの問題もあったのだろう。
いまは「はしるはしる」読んでいく。
まるでノーマークの作品だった。
いっぽう黒澤明の『七人の侍』の影響、この時期にして環境破壊問題の提起、そして手塚作品の伏流としての宇宙、生命、時間といった壮大なテーマがうかがえる。

ふと画家の富山妙子さんと手塚さんを比較してみることを思い立った。
ふたりとも1920年代の生まれ。
そしてふたりとも兵庫県の出身だった!

先週、兵庫にある大学相手にオンライン講義を行なった。
開始直前に担当教官に、学生の兵庫出身率を聞いてみたが、見当がつかないとのことだった。

もうひとつ、富山さんと手塚さんの僕にとっては大きな共通点があった。
ふたりともブラジルを訪ねて、ブラジルの日系社会に対する批判を語っている。
日本からくる多くの「知識人」は当地の日系社会に対して皮相的な「古きよき日本が残っている」といったリップサービスを残して去っていく。

この二人は違った。
それが発酵して手塚さんは遺作となった『グリンゴ』を遺し、富山さんは僕と出会ってそれを僕に託した。

死者の日に、時空を飛び越えたふたりを想う。


11月3日(水)の記 憲法/ゴジラ/手塚
ブラジルにて


祖国は、文化の日か。
西暦1946年に日本国憲法が公布された日だ。
これは祝いたい。

今日が手塚治虫さんの誕生日だというのには驚いた。
昨日のこのウエブ日記でも手塚さんのことを書いたばかり。
そしてここのところ『手塚治虫がいなくなった日』(潮出版社)という手塚さんの追悼文集を読んでいる。
各人が手塚さんをいたみ、しのび、想う言葉が富山妙子さんへの僕の想いに重なっていく。

ツイッターにやたらにゴジラの画像が流れてくる。
今日はゴジラの誕生日だそうな。
西暦1954年のこの日に初代『ゴジラ』が劇場公開することにちなく。

平和憲法、ゴジラ、手塚。
汚されちまった「スゴイ」という言葉が出てきてしまう。


11月4日(木)の記 ポルトガル実験詩歌展
ブラジルにて


未処理事項を片付けておきたい。
購読料未払いの冊子がある。
数年前、銀行での支払いができなくなり、編集部を訪ねて払いに行った。

ついでの用足しもできるし、先方に尋ねたいこともあるので電話で都合を確認のうえ、昼前に行くことにした。
先回もそうだったが、こちらの支払い状況を確認しないのがスゴイ。

2年分を払いたい、と言うと、
「今年と来年分ですか?」
と聞かれる。
いえ、昨年分も払っていないと思うので、昨年と今年分ということで、と正直に伝える。

さて。
近くのサンパウロ文化センターの展示を見に行こう。
事前に調べると「ポルトガル実験詩歌展」というのをやっているらしい。
なにせタダ。

おう、これか。
http://centrocultural.sp.gov.br/2021/09/15/exposicao-poesia-experimental-portuguesa/

これは面白いではないか。
ポルトガル語の文字を用いたアート表現だ。
1970年代、ポルトガルの独裁政権時代に起こった動きのようだ。

文字のアートは書道など漢字系文化圏、日本スゴイ系に押し込められがちだが、ところがどっこい、と痛快。
ポルトガル語がわかると、よけい面白い。

なんだか、満腹。
東洋人街まで歩いて買い物もしようと思っていたけど。
これで帰宅して、気の重かった文書をしたためて先方に送信することにする。

これを片付ければ、だいぶスッキリするぞ。


11月5日(金)の記 モランディカラー
ブラジルにて


当地の朝8時。
日本の知人から電話をいただく。
50分近く話す。
その内容をご紹介できないのが残念。

今日は病院での診察あり。
受付に30分。
予定診察時間に遅れること1時間。
今日はコンピューターの不具合で遅れた、と医者は言っていたけど。

今朝の電話をうけて、ダウンタウンのさる場所を訪ねることにする。
その流れで、ブラジル銀行文化センターの『ジョルジョ・モランディ』展を見てみる。
予習もせずに飛び込むが―

わずかな線で風景をかもしだしてしまうこの画家の力量にびっくり。
そして、生涯を通してひたすら地味な静物画を描き続けたようだ。

鑑賞後にモランディについて検索。
ほう、日本でも最近に至るまで展示をやっているのだな。
「モランディカラー」という呼称があることも知る。

たしかに、その語でくくれる色合いがある。
こっちのヴォキャブラリーも増えた。


11月6日(土)の記 百年の航海
ブラジルにて


今日は、画家の富山妙子さんの生誕100周年の日。
残念ながら富山さんは今年の8月18日に他界された。

富山さんをこころに留めて、素材にトラブルのあった拙作『富山妙子 炭坑に祈る』の再編集作業を行なう。

昼は家族の祝い事で、4人で外食。
僕にとっては徒歩圏で見つけたアナ場にて。
好き嫌いのわかれそうな場所だが、家族全員に気にいってもらえたようで何より。

念のため携帯蚊取り線香も持参。
今日は、着火にはおよばず。


11月7日(月)の記 エチオピアから
ブラジルにて


最初は、エチオピア航空からだった。
今年の誕生日のお祝いメッセージ。
次いで、日本の友人からメッセンジャーで。
今年も圧倒的に多かったのはフェイスブックへの誕生祝いの書き込み。

さすがにトータルで100人もいかない。
ひとりひとりに個別に返信。
誰だったかよくわからない人もいるので、相手のプロフィールを調べたり。

富山妙子さん生誕100周年記念オンライン上映計画の諸々の作業を、並行して進める。


11月8日(月)の記 狐の昼夜
ブラジルにて


11月20日にオンライン上映予定の拙作のひとつ『水戸喜世子さんに聴く』の改訂作業。
水戸さんのお話への理解を深めるために、新たに字幕を付け足したい。

うーむ、既成の字幕の字体も変えたくなってきた。
この作品のなかに拙作『狐とリハビリ』の上映の様子が映し出され、水戸さんもこの作品に言及している。

午後、パレンチ(親類)の家へ。
今晩から明日昼まで、僕が炊事当番。

豚肉の味噌漬けを用意していた。
が、昼が豚肉だったという。
オプションに用意した、手作り油揚げとするか。

わが家の冷蔵庫で日数が経った豆腐を薄切りにして、水を切っておいた。
自分で油揚げをつくるという発想は僕にはなかった。
サンパウロの畏友・美代さんのウエブ通信で、彼が揚げていると知った。
直接の伝授もいただき…

こっちの台所はわが家よりずっと広く、換気扇もある。
さほど高くない温度の油で、水切りにそれほどこだわらなくてもいいということだったが…

揚げ終えのタイミングがよくわからない。
キツネ色とは言うが、実際の狐などいつ見たことだろう?

油揚げと呼ぶには、厚すぎたかも。
長ネギ、おろしショウガに鰹節と醤油で、これはこれでよろしいけれど。
揚げ具合、大きさ形状、調理法など無限のヴァリエーションがありそうだ。

ネット検索して、日本の豊川には「おきつねバーガー」というのがあるのを知る。
これはさすがに驚き。


11月9日(火)の記 ふせんのちかい
ブラジルにて


出先で、昼食の炊事当番まで担当することにする。
その合間に、わが家から持参した書物を読む。

…来週、日本相手のオンラインプロジェクトがふたつある。
それの備えとしても格好な冊子だ。
「フィルムふせん」(日本語でこう呼ぶといま調べて知る)もわが家から持参してよかった。

こちらの大型文具ストアで見つけた時は、小躍りした。
おネダンは日本のヒャッキンの倍ぐらいかな。

ブラジルではなかなか自分に使い勝手のいい文房具がなく、ひと通りいつも日本で買って持参していた。
しかしパンデミック突入で、在庫も切れて。
けっこうこちらで入手できるものでなんとかなるものだ。

6B-8Bのエンピツとフィルム付箋は読書の供として欠かせなくなった。
シオリも凝りたいところ。


11月10日(水)の記 一日断食一万歩
ブラジルにて


月→火とお泊りのオサンドンを受け持った。
そのため、きょう一日、断食することにする。

買いものと日課のグラフィティ採集で外出。
水曜のオルガニック製品野外市をのぞくか。
根の部分が玉ネギ状に球根になっている長ネギを買う。

さて、グラフィティ。
こっち方面はあまりない…

だんだんおうちが遠くなる…

お。
ちょっと変わったのを発見。
https://www.instagram.com/p/CWGYuKzLgfj/
アベ応援団の小説家を想い出すけど。
おじさんのシャツの柄も面白い。

…バミューダをはいているし、ひょっとすると少年かな?

あら、なんだかんだで今日は一万歩以上、歩いてしまった。


11月11日(木)の記 富山妙子 百年の航海
ブラジルにて


来週末に迫ったオンラインイベント、ようやく主催者の正式告知が上がった。
http://www.100nen.com.br/ja/okajun/000119/20211110016324.cfm?j=1
各回定員制、申込み締め切りもあるので参加ご希望の方はご留意ください。

とにかく担当の方が公私ともに多忙を極め、パソコンの事故も重なった。
過労ダウン、ちゃぶ台返しなども懸念していたが…
さっそくこちらからもフェイスブック、ツイッター、そしてこのウエブ日記で情報公開。

隔週計3回のイベントのタイトルは僕が当初に提案した「富山妙子、百年の孤高」となっていた。
最初にこれをあげたが主催者の反応がないため、その後も考え続けた。
富山さんの肉親から、ちょうど60年前のいま、富山さんはブラジルに向かう貨客船に乗っていた、というご指摘をいただき、はっとした。
それで浮かんだのが「富山妙子 百年の航海」。

60年前の富山さんを世界に開いた航海と、富山さんの人生100年を航海にたとえた次第。
イベント主任は「いいですね~」と返しをくれたが、決定版は「百年の孤高」だった。

ま、どちらにしても僕の出した案だ。
「百年の孤独」だと「まんま」だし、「孤独」の語は重い。
そしてラテンアメリカへのオマージュを底層に敷いている。

ただいまこちらでは第一回上映作品のトリ『抱きしめたいほど好きなのに 水戸喜世子さんに聴く』の改訂版作成の鋭意作業中。


11月12日(金)の記 パウロ・フレイレの百年
ブラジルにて


夕方、病院で検査を受ける家族の付き添いをすることになった。
どうせ地下鉄代をはたいて出るからには…

その前にITAU銀行文化センターで開催中の気になる展示に寄っておこう。
病院まで楽勝の徒歩圏だ。

めざす展示はパウロ・フレイレ生誕100周年記念展。
パウロ・フレイレ「も」生誕100周年だったのか!
世界的に知られる識字教育の教育学者だ。

画家の富山妙子さんは西暦2021年11月6日生まれ。
パウロ・フレイレは9月19日か。
後に日本語のウイキを見ると9月21日になっている。
時差二日。
まさしく同時代の人だ。

展示で驚いたこと。
パウロ・フレイレは奥地での識字教育でスライドを使っていたと知る。

われらが富山妙子さんは、画家はギャラリーにとじ込まれるべきではない、と考えて、自作をスライドにして各地で上映活動を行なっていた。

わが想いは、スライドにスライド。

思い返せば恥ずかしながら、パウロ・フレイレの著作をきちんと読んだことはない。
邦訳本は一般的ではなく、値段も張った。

ポルトガル語だと、買っても積んど苦になりそう…
まあ、こっちの本屋で探してみるか。


11月13日(土)の記 日中戦争と日中友好
ブラジルにて


当地の来週火曜未明に日本は関西の大学相手のオンライン講座あり。
お題は「スマホで人を殺せるか」。
却下されるかと思ったら、担当の先生がノッてくれた。
僕なりの独自の写真論を展開するつもり。

基本的なネタは準備したが…
もう一度、PIERRE VERGER展を見に行くか。
11月21日までのはず。
場所は、トミエ・オオタケ文化センター。

PIERRE VERGERは、まさしく巨人だ。
大サルガドに勝るとも劣らない。

フランスに生まれ、世界各地に出向いて写真を撮り、アフリカ、そしてブラジルに魅せられていく。
彼の大判の写真はやはり紙に焼かれて壁に吊るされたのを見るのがここちよい。

今日は3回目の鑑賞。
これまで壁の解説書きはすっ飛ばしていたが、きょうは読む。
そしてガラスケースに陳列された印刷物や彼の肉筆類も見る。

彼が第2次大戦前の日本も訪れて撮影していたことは知っていたが…
ええ!?
彼は通信社の依頼で1937年、日中戦争の取材をしていたのだ!
その成果は『LIFE』の記事になっていて、現物が展示されていた。
まさしく眼をマクロ機能に切り替えて凝視。
…かなり広角の遠景写真が多く、彼の他の写真とはだいぶ趣が異なる。
写っているのは中華民国側の将兵ばかりなので、中国側に従軍したのだろう。
彼は日本軍の蛮行のあとを目撃、撮影しているのだろうか?

…小腹が空いた。
ハンバーガーぐらいを食べたいところだが、土曜の午後、なかなか適当な店が見当たらない。
けっきょく「ヤキソバ ビーフン」と看板の出たビルのなかの一食堂に。
人がいるのかもわからなかったが、やっているという。
ビーフンを頼んで…
リアさんという北京出身の若いおかみさんとの会話が面白かった。

ブラジル人向けメニューにはない料理の写真アルバムを見せてくれる。
彼女がすすめるのは北京の郷土料理だという麵料理。
おお、千切りキュウリに肉みそ炒め風、これはジャージャーメンではないか。
ジャージャーメンを中国語風にハチオンしてみるが、通じない。

書いてもらう。
炸醤面。
そうか、日本語ではジャージャーメンと称しているが、ジャンなのだな!
これはヨダレが出るほど食べてみたい。

字で書いてくれと言われたのは、あなたが二人目よ、と言われる。
もう一度、ヴェルガー展に挑んでジャージャンするかな。


11月14日(日)の記 さより日和
ブラジルにて


日曜の路上市へ。
焼き魚用の魚を買うつもりだった。

お。
サヨリがあるではないか。
ポルトガル語名はAGULHA、ずばり「針」。
イワシと同じ安値で、キロで約350円。
聞くと冷凍ものではないという。

刺身にしてみるか。
帰宅後、さっそくさばいてみる。
おう、おなかに卵もたっぷりでさらにお得な思い。
ありがたくいただこう。

しばらくぶりなので忘れていたが、サヨリはプチプチとした浮袋がある。
そうか、トビウオ上科なのか。
めんどくさいけど、薄皮をはがす。
うーむ、はぎにくいけど。

わさび醤油で…
絶妙なり。

さあ火曜未明のオンライン講座の準備を続けよう。


11月15日(月)の記 明日のために
ブラジルにて


当地の明日、丑三つ時がホンバン。
…と書いてから、正確な丑三つ時を調べる。
うむ、午前2時から2時30分の間とな。
授業開始は3時20分だから、サンパウロ時間の丑三つ時より深い。

本日午前9時、担当の関西学院大学の津田先生とZoomでリハーサル兼打ち合わせ。
先回は本番前の打ち合わせとなり、思わぬトラブルも重なってうろたえた。
失敗体験を活かしたい。

今日は月曜恒例の一日断食も決行。
午前中はグラフィティ採集と買いものを兼ねて外出。

帰宅後は、ひたすら明日の講座「スマホで人を殺せるか」の準備。
先回の関学での講座のときに学生たちからもらったコメントに励まされながら。
ノートに書き出さずにはいられないものもあり。


11月16日(火)の記 夜勤明け
ブラジルにて


Zoom入室要請されている当地の午前3時10分の、一時間前に目覚ましを仕掛けておいた。
が、1時台に起床。
昨晩は早めに横になっておくが、1時間おきぐらいに目覚めていた。

オンライントークの舞台設定。
うむ、電波障害は特になさそうでまずは安心。
関西学院大学の津田睦美さんの授業枠をいただいてのオンライン講義。
津田さんは、写真作家。
今日のお題は「スマホで人を殺せるか」。
僕なりの独自の映像論、写真論をお話しするつもり。

受講するのは約150人、ほとんどが大学一年生とのこと。
高校時代にパンデミックを迎えて、そのまま大学に入ったのか。
その他、大学院生の受講希望者も受け入れている由。

先回は電波状況が著しく悪く、こちらの映像を落としての音声トークとなった。
今回は映像もオッケー、用意した資料を次々とライブで見せていき。

後半はチャットでもらった学生さんの質問に沿ってトーク。
おっと、最後にコンセントレートしてしまい、5時終了を超過してしまった。
ま、金太郎飴みたいにどこで切ってもらってもいいような駄話だけど。

あとの予定がなく、まだ聞いていたい人のために30分ほど延長サービス。
こちらは日の出を迎えた。

特に事故もなかったようで、なにより。
用意しておいたことの3分の一ぐらいは話したかな。

通常ならアルコールをいただくところ。
今日は、昨日一日断食したため酒類はご法度。
お粥さんをいただく。

…興奮を引きずり、身心は疲れていても眠りに至れなそう。

日本の富山妙子さんのお宅の近くのBOOK OFFで買った『秘録・謀略宣伝ビラー太平洋戦争の"紙の爆弾"』を開く。
今日の講義のポイントのひとつは、レンズ。
用意しておいたけど見当たらなくなってお見せしなかった虫眼鏡が、はからずもこの本のビラの写真を判読するのに役に立つ。

このルーペ、レンズ周囲がだいぶ汚れているので洗ってみる。
ひょっとすると、日本の亡父が使っていたものかも。


11月17日(水)の記 パンデミックの額縁ショー
ブラジルにて


午前中、近くでの買い物を済ませて帰宅。
と、額縁屋から出来上がりを知らせる電話が入った。

来たる土曜のオンラインで披露する予定の作品。
今週月曜が祭日でもあり、先週金曜に持ち込んでおいた。
じゅうぶん間に合ってよかった。

パンデミックに入ってから、数十年ぶりに額装を再開した。
以来これが4点目。
最初は近くのガラス屋にお願いした。
その後、作品購入の間柄になったグラフィティ作家に額装専門店を教えてもらった。
住宅街の下の方に、ぽっこりある店。
一度、仕上がりにクレームをしたが、こころよく無償で対処してくれた。

午後、思い切って額縁屋まで歩く。
今度のは複製の印刷だが、額装すると別ものの感じ。
気温は30度を超え、坂道を汗をふきふきガラス張りの作品をそろりそろりと運ぶ。

ビデオ写りのバックの新たな構図を考えないと。


11月18日(木)の記 ミュージアムの立ち見
ブラジルにて


外は雨がちだが、傘持参にはおよばないかな。
トミエオオタケインスティチューションの写真家PIERRE VERGER展に思い切ってまた行くことにする。
今月21日までの会期だが、場内かけ流しの動画をきちんと見ていなかった。
明後日に迫るわがイベントにも、見聞がなにかの足しになるかもしれない。

ヴェルガーはフランス人の写真家で、アフリカ、そしてブラジルのとりこになりブラジルのサルヴァドールに移り住んだ。
動画のタイトルはずばり『ブラジルのアフリカ人』。
ブラジルのアフリカ系の子孫へのインタビュー、そしてルーツのアフリカを訪ねて今日の祭礼を記録したもの。

かつて僕がかかわっていた『すばらしい世界旅行』の世界だ。
撮影は16ミリフィルム、音声は別撮り。
ほとんど三脚を用いたショットがないのもなんだか親しみがわく。

動画の長さを確認しないで鑑賞を始めたが、短くはないぞ。
そもそも展示空間の一角で、椅子もない。
他の音声も聞こえてくるので、きちんと映像を見せる設定ではない。

三々五々とやってくる観客は、せいぜい1、2分しか足を止めない。
いやはや。
動画の一巡まで小一時間。
横の記載を見ると54分か。
フランスのテレビ用に制作したものらしい。
今度、こうしたことがある時は折りたたみの椅子でも持ってこようか。
事前に監視員に相談の要ありだろうな。

さあ自分の方の上映に備えよう。


11月19日(金)の記 ブラジルのUTAKI
ブラジルにて


さあ明日、当地の午前7時から画家の富山妙子さん生誕100周年記念オンライン上映会の第一回だ。
それを迎えるにふさわしい場所に行って気合いを入れたい。

…サンパウロのいまの若い文化とアートのメッカ、ヴィラマダレーナに行くか。
ちょうど「UTAKI」というアート展を開催しているギャラリーがある。
沖縄にルーツを持つカタリーナ・グシケンさんという日系三世のアーチストの個展。
彼女は自分のルーツ探しで沖縄を訪ね、御嶽(ウタキ)の存在を知ったらしい。

夜がにぎわう場所で、日中のギャラリーを訪問したのは僕ひとり。
オリエンタルなものの模索がうかがえる展示だった。

ウタキ。
沖縄での聖地で、水にまつわる場所が主のようだ。
ブラジルに渡った沖縄系の人たちにはブラジルのウタキもあると聞いている。
ブラジルの海岸山脈にはウタキとして格好な場所がありそうだ。

グラフィティのメッカ、ベコ・ド・バチマンを久しぶりに訪ねる。
今日のインスタにあげるスナップはどうするか。
今日はすでに面白いのを撮っているが…
少しメッカから外れたところにあったこれにする。
https://www.instagram.com/p/CWeA8bGrc5B/


11月20日(土)の記ARTE SACRA
ブラジルにて


ついに。
僕にとって今年最大といっていいイベントの当日となった。

画家の富山妙子さん生誕100周年記念オンライン上映全三回の第一回目。
直前まで紛糾、どうなることかと思ったが。
主催者とメッセンジャーでのやりとりのあと、当地午前6時半にZoom入室。

イベント開始の7時前にこちらのWi-Fiが断線となるが、本番前に復旧。
…実に濃く深く広い展開の寄り合いとなった。
おかげさまで。

こちらは午前9時半。
興奮冷めやらず。
当地は土曜にして黒人問題啓発デーという祝日である。
朝食を兼ねてアルコールをいただく。
それでも余韻、冷めやらず。
今回の反省と次回への展望。

次回にも備えて…
ピエタを見に行くか。
サンパウロの中心街にあるARTE SACRA美術館。
「聖美術」といったところだがサンパウロのことを漢字文化圏の人は「聖」の字であらわすのでまぎらわしい。
カトリックにまつわる美術品のミュージアム。

塑像の十字架の道行き展が開かれているという。
塑像もさることながら、ほぼ常設の展示も興味深いものだった。
前世紀にこの美術館を初めて訪れた時は、カトリックのぎんぎらぎんのミサ道具ばかりの展示で辟易した覚えがあったのだが。

イタリアやらブラジルバロックの中心地ミナスジェライスやサルヴァドールを訪ねなくても、身近でけっこう享受できるではないか。

また来ましょう。


11月21日(日)の記 あとしまつの日曜日
ブラジルにて


昨日のイベントのアフターケア作業をぼつぼつと着手。

路上市で…
1キロ半ほどのアジを買う。
昼、まずはカルパッチョでいただく。
よろしい。

夜は寿司飯を炊いて…
スーパーで安売りしていたエビを茹でて。
アジを刺身におろして、薄口醤油でヅケにして。
チラシでいただく。

通常、味の中骨はナメロウにする。
が、なんだかめんどくさくなった。
少し塩をして、後日アラ汁でいただくか。

悪酔いしがちなプラスチック瓶入りの安ウオッカをあける。
あんまり安いのは考えものだな。


11月22日(月)の記 ムカジャイ川のうまれるところ
ブラジルにて


ムカジャイ、という地名を思い出す。
どこだっけ。
日本ではないだろう。
ムカイさんという知人が複数いるが、関係なさそうだ。

深夜のスマホチェックの悪癖、身心にいいはずがない。
ところがしばしば、日本からの緊急を要する連絡もある。
うむ、別のムカつくことを思い出してしまったぞ。

未明に開いた日本からのメールで、読み返すのも気色の悪い要求あり。
ムカついて眠れなくなった。

夜が明けてから、この件にも連なる友人知人に別件もあったので、これについても書いてしまう。
すると、僕以上に怒りを表明してくれた。
僕の方がズレているわけではないようで、なんだか安心。
それにしてもこうした仲間はありがたい。

ムカツキの頭のなかで、ダジャレ脳にムカジャイの語が浮かんだ次第。
こっちの先住民語っぽい響きだが…

お。
検索してみると。
ブラジルの北アマゾンにあるロライマ州にある行政区の名前だった。
その地に流れるムカジャイ川に由来する。
ムカジャイ川の原流域に…

僕が『すばらしい世界旅行』の先住民ヤノマモの取材の際、中継地としたスルクク基地があった。

あの頃あの場所のことどもに想いを馳せると、言語道断な要求へのムカツキも少しはおさまるというもの。

ブラジルの巨大ムカゴも思い出したぞ。


11月23日(火)の記 アジとトマト
ブラジルにて


さて、夕食の準備…
昨日今日と自宅で天日干ししたアジの切り身をメインに。

冷蔵庫に顔を突っ込み…
あ、アジのアラを忘れてた。
通常は購入日にナメロウにする。
今回はなんだかめんどくさく、アラ煮にでもしようと少し塩を振って冷蔵庫に入れておいた。

ネットでアジのアラのレシピを見てみる。
ふむ、ラーメンの出汁にしてもいいのか。
それだと、アジだけだといま一つパンチに欠けるという記載も。

トマトとタマネギのスープというのもある。
久しぶりに安売りのトマトを袋で買ってきている。
これにしてみようと思うが、このレシピのコメント欄、つくってみた報告がゼロなのが気になる…

ま、試してみっか。
…パセリがないが、青ネギで…
ローリエも入れるか。
塩味で、お澄まし風に。

いい感じ。
家人も喜ぶ。

アジの干物も鰹節を彷彿させるうまみあり。
一日断食の翌日は、うまみ系に特に敏感になっているようだ。

SNSでこのレシピを提供してくれた人に、せめてコメントぐらい書き込ませていただこう。


11月24日(水)の記 路上の人さまざま
ブラジルにて


わが家の前の大通りにたむろしていた路上生活者群の一部が、交差する通りの歩道に移った。
ここはより狭く、彼らは通行人にいちいち金銭をせびってくるので、とくに婦女子は通行をはばかる人も多いだろう。
市民が朝の仕事を始める時間にまだ寝ていることもあれば、そんな時間から蒸留酒をあおってマリファナの煙を漂わせていることもある。

昨日は、年配の女性が立ち止まって彼らに説教をしているのを通りがかりに小耳にはさんだ。
彼女が彼らの問題を指摘すると「あいつはクロ(アフリカ系)だから…」
と答える。
さらに彼女が続けると「あいつはオトコの同性愛者だから…」
の由。
同じ路上生活者でもクロでも同性愛でもない自分たちは違う、というわけだ。
差別意識の根は深い。

今日は徒歩圏のミュージアム詣で、天然酵母パン探しで少し遠出をした。
昼過ぎ。
あ、ここにも路上生活者ふたりが歩道にしゃがみこんでいる。
緊張しながら前を通る。
むこうが「こんにちは」と言ってきたのでこちらも「こんにちは」と応じて通り過ぎる。
カネよこせ、も「このジャッパ」といったナジリの言葉もなかった。
…この人たちはわが家の近くの人たちと違ってヤバさ感が乏しい。
テリトリーに置いてあるものも整頓がうかがえる。

まあ、どのカテゴリーの人たちも一概には言えないものだ。


11月25日(木)の記 先住民 抵抗のアート
ブラジルにて


これからオンライン上映をする予定の画家・富山妙子さん関連作品の再編集作業に臨むにあたって。
もうすこし自分のテンションをあげたい。

アーチストとアートに向かうには、アートをもって。
サンパウロのイビラプエラ公園のなかにあるMAM:サンパウロ現代美術館の先住民アート展に行こう。

往復歩いて、2万歩強。
入館すると、まずは併催のブラジルモダニズム展。
近代ブラジル絵画の逸品がいくつか集められていて、これまたごちそう。

今日のブラジル各地の先住民:インディオたちのアートの多様性にまずすなおに驚く。
ただアートとして傍に置いておきたくなるような作品も。

そして今日、先住民たちが追い込まれている状況のほとばしり。
大農牧場経営者たちに、いかに追い込まれているかという「いたみ」があふれる作品群。

アートのあり方を思い知らされた。
抵抗の、あらがうアート。
富山さんに、この報告をしたかった。

そして、自分はいったいなにをやっているのか。


11月26日(金)の記 黒い金曜日
ブラジルにて


深夜にスマホを開き…
親しくしていた思わぬ方の訃報。
日本の友人が知らせてくれた。
夜が明けてから共通の知人に知らせた。
「誤報であってほしい」の返し。
同じ思い。
が、ブラジル側からも帰天を確認。
祈ることぐらいしかできない。

はからずも今日は「ブラックフライデー」。
アメリカ合衆国起源の安売りの日。
日本での浸透はイマイチかも。

ブラジルでは、年々さかんな感じ。
今年はスーパーがそれぞれ安売りを仕掛けているのが目立つ。
心は忌中なれども、節約のための買い物はしておこう。
スーパー一軒あたり、コメやら牛乳やら5キロを超える買い物。
ルート近くに教会があれば、立ち寄って祈りの時間を持ちたかったけど。


11月27日(土)の記 リジア・クラークの100年
ブラジルにて


一生モノとのことで2か月前に入れた差し歯が昨晩、割れる。
朝イチで歯科医に電話をするが、来週に、とのこと。
月曜に病院で受ける検査の準備もあり、特別モードに。

ミネラルウオーターのストックがほぼ払底。
来週半ばまで水汲みを伸ばすか…

午後、思い切って市内の源泉に汲みにいく。
それに抱き合わせて、モルンビ地区で開催中のLYGIA CLARK展を見に行こう。
自動車でアート鑑賞に行くのは…
8月のクリチーバ以来か。

めったにつけないテレビを先日の朝、オンにしてこの展示のことをニュースで知った。
ブラジル人の女性のアーチストで故人だが、生誕100年!記念展だという。
富山妙子生誕100年記念企画の参考になろう。

この人のことは、少しは日本語になっているようだ。
お、金沢21世紀美術館に2点、オブジェがある由。
僕の理解が追い付いていないせいで、どう説明していいかよくわからない人と作品。
100年、といってもリジアは1920年10月生まれ、富山さんより一歳上だ。
リオで昨年から記念展が始まっていた。

それぞれの時代らしい絵画に始まり、立体物をつくるようになった。
セラピー効果のある作品とのことだが、その理屈がよくわからない。
彼女はアートストとは称さなくなったという。
アート関係は日本語で読んでいてもアタマがいたくなるような文章が多い。
それがポルトガル語になると、もはや…

そのうち少しはわかるようになるのかな?
この展示にはもう来ないと思うけど。


11月28日(日)の記 日曜の塩味
ブラジルにて


明日、病院で行なう検査に備えて昨日から食事制限が始まった。
飲食してはダメなものばかりだが…
野菜も果物もダメというのは、なかなか。

食べていいのはポテトピューレやミキサーにかけた野菜のスープ。
量は通常の摂取量の半分程度。
…慣れている一日断食より、かえってしんどい。

味も単調…
そもそも薄味でしつらえてある。
少し調味料を…

青唐辛子浸け醤油、ココナッツ醬油。
各種の塩…
うむ、いろいろ味わえて面白い。

それにしても食が単調だと、なんとも味けないものよ!


11月29日(月)の記 月曜揺曳
ブラジルにて


早朝より検査のため市内の病院に。
おや、来いと指示された時間には、まだ受付が始まっていない。

全身麻酔の準備。
まずは点滴。
ベッドで運ばれて…
日本はどうだったか、こちらでは大きなベッドを女性の看護師がひとりで移動させるのだな。
大ぶりのベッドで、角のたびにぶつかって。

麻酔注射後、ころんといってしまったようだ。

ふたたびこの世で目覚める。

今日はわが家でごろごろゆっくりしよう。
あらたな食餌制限が、あと三日。
ああ、お酒が飲みたい。


11月30日(月)の記 コーヒー断食
ブラジルにて


今日は朝イチで東洋人街の医療機関へ。
午前8時すぎのメトロに乗ると思うだけで、混雑が浮かんでげんなりしたが…
意外に車内はゆるゆるだった。

東洋人街はサンパウロ市の中心近くのため、ついでが楽しみ。
グラフィティ系には毎回、目を見張る。
今日は台湾製の「素麵」というのを買ってみるか。

中心街の書店や衣料品店も回る。
思い切って老舗のカフェに寄ってみた。
日本ならモーニングサービスの時間帯だが、店内もすいているので。

今日は一日断食の日だ。
これまで断食の日には、コーヒーは刺激が強いかと思って避けていたが…
ネットで調べると、ミルクや砂糖を入れなければ、まあオッケーのようだ。
お、コーヒー断食なんてのもあるのだな。
コーヒー以外の飲食を断つというもの。

不安もあるが、エスプレッソのストレートをひっかける。

特に別条はなし。
ま、一杯にしておこう。



 


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